関西人のおっさんが頭の中に出現したら異世界転生して世界を救う小説:続・僕の中に関西人のおっさんが住んでいる+【朗読動画】

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 おはようございます。こんにちは。こんばんは。ブログを閲覧いただきありがとうございます。

 youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
 自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
 たまに作者自身の北条むつき朗読もございます。

 今回ご紹介の朗読動画は、関西人のおっさんが頭の中で出現したら異世界転生して世界を救うお話です。
 良かったら聴いていただけると嬉しいです。

・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉続・僕の中に関西人のおっさんが住んでいる
帰ってきた関西人のおっさん。俺と千景の神隠し
作者:北条むつき
朗読:水無月とあ。

第1話:帰ってきたおっさん

 関西人のおっさんが消えてから五年が経ったある朝のこと……。

「アガ……ッ……アガアガアガアガ……ッ」

 突然、顎が外れそうな勢い……。否、外れそうではない……。外れたのだ。この経験は、以前にもあると思い、顎が外れた痛さを堪えながら、俺は思った。

 おっさんが再び来るのか?

「アガ……ッ!」

 自分の掌底を以前と同じように顎に一発。そして二発。すぐさま経験があったため対応をする。おっさんの声が頭の中でするのかと思った俺だったが、定位置に顎を戻してもおっさんは現れなかった。

 朝七時に、顎が外れて起きたことは五年ぶりだ。あれから五年。俺は自分のことを僕から俺へと呼び名を変更した。というのも、色々人生経験も積んだからだ。俺の名前は山本孝之。とある俳優と名前は似ているが、あんなに濃い顔でも、イケメンでもない。どこにでもいる普通の男。十九歳の頃と違うことは、もう学生では無く、声優として働く社会人だ。

 四年前にアニメーションスクールを卒業後、イベントで受けたオーディションで、あるプロダクションの目に留まり、声優として活動をしている。今、絶賛売り出し中の身なのだ。

 今日は地方都市でのイベント会場近くにいる。ビジネスホテルに泊まり、朝を迎えたと言うのに、五年ぶりに顎が外れると言うことに、違和感をおぼえた。

「あぁ……」

 ため息混じりに、両手をあげて伸びをしてパジャマから着替え、朝食を採るべくホテル二階のレストランへと降りる。
 まだ眠い。目を擦り、欠伸を一つした。

 二日連続で、イベントをするため腹ごしらえと思い、レストランに入る。昨日一緒にイベントをした声優仲間であり、僕の恋人でもある同期の大西千景(おおにしちかげ)が椅子に腰掛け、手を上げて名前を呼ぶ。

「こっち! おはよう! タカちゃん!」
「あぁ! おはよう……。ア〜アァ……」俺は伸びをしながら、席に着く……。と、突然背筋に電流が走った。

「イッ!?」

 その瞬間とても懐かしくもあり、嫌らしさ満点で俺の頭の中でおっさんの声がした。

【お前の彼女か? めっちゃ美人やんけ! 成長したなあ!? 孝之】

「イィッ!」

 もう一度声を上げると、千景が目を見開き俺を見て聞き返す。

「どうしたの? タカちゃん? 大丈夫?」
「……あっ……ああ……」

 俺はおっさんの声をかき消すと、何事にもないように席に着き、少し引き攣った笑顔をして千景に応えた。

【安心しとったんちゃうかあ? びびった? 時間差。フェイントかけたった!】

「ああ、あかん……」

 俺は、またおっさんの声が頭の中でしたことで、テーブルに肘をつき固まる。

 その様子を見て、千景が俺の腕を取り体をゆらす。

「タカちゃん? どうしたの? 気分でも悪い?」
「い、いや、大丈夫……」

 と、突然また頭の中で、おっさんが言う。

【おぉ? お前……。強なってへんか? やっぱし、来て正解やなあ!】

 俺は、その言葉に小さく頭の中でおっさんと対話をする。

(なんやねん! おっさん! 急に来やがって! 再会は言うとくが、嬉しないからな!)

 頭で念じると、おっさんが言う。
【お前、関西弁……使ってるやん】
 ええから、出ていけおっさん!
 そう念じるとおっさんの声は遠のいた。ホッと安心しながら、朝食のクロワッサンと、茹で卵、小皿のサラダを口にしながら、千景と今日のイベントの会話をする。

「ねぇ、タカちゃん、昨日の爆音戦隊バクオンジャーのイベントで、疲れてない? 大丈夫? バクオンジャーの攻撃方法が特殊だから、疲れたかなって、心配になる」

 頭の中におっさんが現れたことで、固まった俺に違和感を感じたのか、千景は優しい言葉をかけてくる。
 大西千景。彼女は俺と同じ声優で、同じアニメーションスクールを卒業した同期でもある仲間だ。卒業後も仕事現場で遭遇することが多く、どちらかともなく、惹かれ付き合いだした。

 知り合った当時は、あまり会話を交わさなかったが、とある演技指導の時、先生に同じ質問をしたことで仲良くなり、今はこうして同じ戦隊モノの声優として活動している。昨日も同じイベントをこなし、同じホテルに泊まり朝食を食べている。

「ん? 大丈夫やで? 喉の調子も悪くはないしね」
「それだったら、いいけど、イベントの台本書いた脚本家に文句でも言いたいよね?」
「いやいや、俺はこれをチャンスだと思ってる。昨日も千景も感じたろ? イベントも大盛況だったし」

 俺は、千景の心配する姿にちょっと可愛らしさを感じ、笑顔で応える。確かに、バクオンジャーという戦隊モノのキャラクターを演じている俺だが、そのキャラクター爆星(ばくせい)は、自分の声を爆音に変えて攻撃するという設定のキャラクターだ。

 だからイベントでは戦闘時に、セリフを大声で言わないといけない。それが大変なのだが、でもやり甲斐は、これまで経験したキャラクターより人一倍大きいものだった。
 なんせ、この爆星は、小中学生の子供に今大人気なっているからだ。
 今日もバクオンジャーのイベントが朝九時と十四時からの二回公演が行われる。そこで俺は爆星のセリフを大声で対応しないといけない。

「そっか、タカちゃん、今人気者だもんね。ごめん、そりゃあ、やる気出るよね」
「ああ! 千景の演じるキャラ、爆実(ばくみ)も人気だろ? 頑張ろ!」

 朝食を済ませると千景と俺は、イベント会場に向かうべく各自の部屋に戻り準備を済ませる。
 ホテルロビーに出て行くと、手を挙げ俺を待つ千景がいた。

「悪りー! ちょっと遅れた」
「行こうっ」

 ホテルを後にした。
 しかし朝食時に聞こえた時以外、関西人のおっさんの声は鳴りを潜め出てくる気配がない。それもあってか俺は上機嫌でイベント会場に向かう。

 するとすでに別働組の声優が発声練習をしながら、俺たちに挨拶をする。
「おぉ! 千景ちゃんと、孝之! 来たな! 今日はよろしくお願いしますね」

 そう答えたのは、悪役、奇獣役の声優だった。

「こちらこそ」明るく対応する。発声練習をし、着替えを済ませて観客席を覗いてみる。
 始まる十分前には、もう大勢の小中学生とその親御さんが席につき、ざわざわと騒がしい。
 その光景を見ると気合が一段と入る。
 BGMが開始五分前から鳴り始め、気分を盛り上げる。開始の合図は、舞台にミサイルが落ちる設定。爆発から始まる。さあ、気合の入る第一声が俺のセリフだ。

 音楽が最高潮を迎えた時、アナウンスが鳴り、地球にミサイル攻撃という設定のもと、爆発音でイベントの幕が開いた。

 鋭く強烈な爆発音の後に千景のセリフが入り、その後、俺が演じる、爆星の『爆音戦隊バクオンジャー! 爆星降臨!』と始まる。

 そうセリフを大きく言った後だった。ホテルで味わった違和感と共に、関西人のおっさんの声が頭の中で聞こえてくる。

【見させてもらった。ええ声や! お前ら二人を連れて行く!】

 おっさんの声が頭の中で聞こえた後、イベント予定にはない煙幕が俺の周りに吹き上がった。
 と、同時にざわめく観客の声と、俺に駆け寄る千景が、名前を呼びながら手を掴んだ。俺は急に意識朦朧となった。

 えっ……。何が起きてん……。

 強烈な爆音の後、足元を震わせ倒れた。

 どこか遠くの方で聞き覚えのあるおっさんの声がする……。

【孝之……。俺を助けてくれ、いや、俺の国を救ってくれへんか!?】


◉続・僕の中に関西人のおっさんが住んでいる
帰ってきた関西人のおっさん。俺と千景の神隠し
作者:北条むつき
朗読:水無月とあ。

第2話:関西国の口無し

「うっ……うっ……うんぅ……」

 イベント会場での爆音と突風で、目の前に黒い煙幕が広がり、一瞬のうちに意識を失っていた。

「うっ……うぅうぅ……ん……」

 頭と喉に違和感を感じながら目を覚ました。見慣れた場所ではあるが何かが違う。
 今さっきまでいたイベント会場とは、全く違う場所だと気づいた。
 いや知っている場所……。だが何かが違う。そう思いながら、手を自分の頭に持ってくる。明らかにおかしい……。

 バクオンジャーに変身する為のデジタルウォッチを付けた腕を挙げ、頭に触れる。その瞬間に感じた違和感……。俺は死んでいるのかと思えるほど、体に体温が感じられなかった。それでも腕は動き息もしている。

 倒れていた俺の横にもう一人、人がいることに気づいた。横を見るとイベント会場で俺の名を叫び、近づいた千景が寝息を立てるように静かに目を閉じ眠っている。
 寝息が少し荒く、通常の寝息とは少し違うことでも違和感を覚えた。
 ゆっくりと体を起こして辺りを見渡す。

「なんだ? ここ……。見慣れた場所。だが……」

 何故ここにいるんだ?

 さっきまでいた地方のイベント会場と違う場所。そう。ここは俺が二十歳までいた大阪のど真ん中。道頓堀の戎橋の橋の上……。

 通常この戎橋は、観光客や地元民も訪れるナンパスポットでもあり、人だかりの場所だ。
 最近では海外の観光客が幅を利かせているはずだが、今は誰一人として戎橋を歩いていないという、おかしな光景が広がっていた。

 昼間だ。店も閉まってるようにも思える。違和感を感じ、人を呼ぶために大声を張り上げた。

「誰かあ! どなたかいますかあ!? ってか、おっさん! あんたもおらへんのかあ!?」

 おっさんが出現するかとも思い、関西弁混じりで声を張る。
 閑散とした戎橋。道頓堀のど真ん中。声だけがやまびこのようにこだまする。叫んでも、頭の中のおっさんどころか誰一人いない。
 いや、数名の人間が、フラフラと足元をヨタつかせながらこちらに向かい歩いてくるの見えた。俺は助けを求めようとその人たちに声をかける。

「あの……。すみません。ここは、大阪のミナミですよね?」

 俺の問いに口元にマスクをした男女数名は、こちらに一瞬目を合わせたが、呆然とし俺たちを無視して素通りし消えて行った。

 明らかに違和感がありながらも、隣で気持ちよく眠っている千景を起こそうと体を揺する。怪我はしていないようだ。

「おい、千景……。大丈夫か? 起きてくれ! 千景……」

 何度か体を揺すると、千景は目を開けた。

「うっう……。うっうぅーん……。あっあれ? タカちゃん……私……」
「ああ、どこかに飛ばされたようだ。体とか痛みは無いか?」
「えっ、ええ……。でもなんだか、頭と喉が痛い……」

 そうだ。千景も俺と同じ思いをしていることに気がついた。

「やっぱり頭と喉が変だよな?」

 千景は衣装の中に入れていたハンカチを取り出し、口に宛てた。

「ってか、ここ大阪?」

 千景も馴染みのある場所に思わず口に出る。

「あっうん……。でも何かがおかしいんだよ……」
「そうね……。なんか難波らしくない……。人もまばらな、この場所って見たことない……」

 千景も同じ思いでいるようだ。一緒にゆっくりと起き上がり、人通りを求めて戎橋から近鉄難波駅を目指し、御堂筋にゆっくりと歩き出した。
 すると、御堂筋の公道に出た。だが、車が一台も走っていない。こんな御堂筋を見るのは初めてで不思議に感じた。
 御堂筋側の歩道、地下階段から、大勢の足音が昼間の街頭に響いた。

「えっ……?」

 人だが、何かが違う……。と、気づいた時には結構な人数が歩道に出て歩いているのに気がついた。
 だが俺たちが知っている人たちとは何かが違う……。
 先ほど見た人も同じだったが、まるで生きた人間ではないように、足音はするものの、一方向しか見ず、目の焦点が合っていない……。ボケェ……としながら、何かを求めて彷徨う姿だ。生きているのかいないのか、ゾンビのような足取りに恐怖さえおぼえる。

 おまけに皆んなどうしたものか、すれ違う人たち全員が白いマスクをしている。

 千景と目を合わせ、不思議な光景に二人ともあたふたと辺りを見回した。

「なんなん? この人ら? おかしい……」

 俺と千景が口にする。……と、近くで聞き慣れた声がした。

【口無しや……】

 声を発しながら、トレンチコートに、ストライプが入ったブルーのパンツ、革靴を履いて、サングラスっぽい色のついたメガネをかけた男が近づく。

【やっと見つけた……。無事か?】

 俺たちを知っているかのように問う男……。

「ん? どなたですか?」
 俺は端的に聞き返すと、その男は笑顔になる。

【そうかあ。孝之は、俺を見るのは初めてやな……。まいど。お騒がせの関西人のおっさんや】

「えっ!? おっさん? あっ、あの頭の中で声を発してた関西人のおっさんかあ?」

【そうやで、孝之……。あの関西人のおっさんや! びっくりさせたか?】

 俺は呆気に取られた。いままで頭の中だけで、声がしていた関西人のおっさんが目の前に現れたからだ。

 しかもこのおっさん。腹もデブっと出ているような声の印象とは違い、スラリとした高身長に、まるで俳優でもできそうなくらいのイケメン……。否、ちょっと言いすぎた……。

 でも、唯のおっさんではないことに気がついた。
 七三に分けた髪がちょっと茶色に染められ、凛々しい顔立ち……。っておっさんの姿を初めて見たので、一瞬誰だかわからなかった。

◉続・僕の中に関西人のおっさんが住んでいる
帰ってきた関西人のおっさん。俺と千景の神隠し
作者:北条むつき
朗読:水無月とあ。

第3話:コーレイナウイルス(高齢なウイルス)

 再会も束の間。俺と千景は、喉に違和感を感じ、大きな咳払いをする。すると関西人のおっさんがペットボトルらしきものを渡す。

【ほれっ、バクチャーの入った水。頭の熱と喉に効く。飲んどけ】

 初めて聞くバクチャーという言葉。違和感を感じたが、おっさんが俺らに変な事はしないと思い、渡された水を飲む。
 すると今まで体温が感じられなかった頭と喉のイガイガも一瞬にして取れた。ペットボトルを千景にも私ながら、おっさんに尋ねた。

「えっ……何これ……」
【そうか。お前知らんのか? まあバクチャーは、汚染物によく効く万能な浄化アイテムや】
「浄化アイテム?」

 おっさんは、俺たちに何故体温が無くなり、喉の違和感が出ていたのか知っている様に説明する。

【今、この関西国では、コーレイナウイルスって言う流行り病が蔓延しとる】

「ん? なにそれ……」と、聞こうとした時だった。千景が俺たち二人を見てびっくりしているようだ。

「どうした? 千景……」
「どうしたも、こうしたもないよ。このおじさんとタカちゃん知り合い? まるで以前から知っているように話すから不思議に思ったけど、紹介してよ」

 すっかり千景を、かやの外に追いやっていることに気づき、関西人のおっさんの説明をしようとしたが、どう説明していいのか迷った。するとおっさんが軽く言う。

【妖精や……】

「コラコラッ! ちゃうやろ!」
【うそや〜。普通の人間。孝之の知り合いや……】

 おっさんはこれでええかと言わんばかりに俺を見る。やれやれと思ったが、頭の中にいたおっさんなどと言える筈もなく頷いた。

「そうなんだ。どうも、初めまして、大西千景です」

 あぁ千景が素直な子で良かったと安心した。
 千景は軽く会釈をすると、辺りを見回しておっさんに問いかけた。

「ねぇ……。ここ大阪の道頓堀よね?」

 千景の問いにおっさんは、首を横に振った。

【ここは関西国の首都、ナンバーゼロや。お前らの国の大阪とは違う】

 その言葉に千景が食いつく。

「えっ? でも……見た目そのまま道頓堀じゃないの?」

【まあ、お前らがいた日本って国にも同じような場所はあるのは知ってんねんけど、ここはちゃう国や】

「何故こんなところいるの? 私ら日本にいたのに……」

 千景は次々に声を出し、おっさんに絡み付いた。俺も同じことを思ったが、なぜか千景に便乗することにした。するとおっさんは首(こうべ)を垂れながら謝る。

【悪りぃー。ごめんな。俺がお前らの力を借りたくて二人を連れてきた。頼む! 俺の国、関西国を救ってくれ!】

 いきなりの言葉にびっくりした。歳が離れたおっさんが俺たちに頭を下げて少し躊躇う。

「……どっどう言うこと? おっさん説明してくれ! さっきから色々訳のわからん言葉が飛び交ってる。俺たちにわかるように説明してくれ」

 急におっさんは以前には見せたことのない姿を見せ、メガネを外し、街中にも関わらず、まるで恋愛に失敗した学生が泣くように啜り泣く。

【……すまん。すまんのう……。ううぅ……。俺が連れてきた。お前らにこの国を託したい。俺の力だけでは、どうしようもないくらいにこの国は、コーレイナウイルスに侵されて絶望的なんや】

 泣くおっさんを見ながら、明らかに俺たちがいた日本の大阪とは違う空気感と、全く人が歩いていない戎橋を見て、俺はおっさんの肩に手をやり、諭すように言った。

「泣きなや……おっさん。ええから説明してくれ……」
 怒り半分、動揺半分、もう兎に角この場所を知っているのはおっさんしかいないと言う思いもあり、おっさんに全てを投げかける。

「……」

 千景は黙り込み、俺の腕をひっぱり耳元で囁く。
「タカちゃん、この人、本当に友達? 違うよね? 関西国って何?」

 関西人のおっさんは、諦めたのか千景に言う。

【千景ちゃん……。悪い。ここは、日本じゃない……。所謂、異世界……。一種のパラレルワールド】

「パラレルワールド?」

 千景はキョトンとした様子で「私たちがいた世界とは違う世界ってことよね?」と聞き返す。

 おっさんは千景の言葉に小さく頷いた。

「異世界!? えっ……。えっ、えっ!? 人攫い?」

 一瞬黙り、何かに気づき、千景が騒く。

【ちゃうわ! 聞け!】

 連れ去れている感覚はあれど、おっさんを知っている俺は何故笑った。
 だが千景は頭の上にハテナがいっぱい飛ぶのか、おっさんに噛み付く。

「私らの力が必要って何? ここどこよぉ! 日本、帰りたい!」

 俺が初めておっさんと出会した時のように、千景は喚き、カタコトで意思表示をし、おっさんに聞き返していた。

【ああもう! 迷惑なんは知っとる。でもお前らってか、声優である二人にやったらこの俺の国が救えると思ったから連れてきた】

 強く言い放つおっさんの目は先程とは違い、大真面目な目つきだった。

「じゃあ、タカちゃんの友達ってのも嘘やね?」
 千景の言葉におっさんは頷き、ため息をつく。……そして突然膝をつき土下座をした。

「おっさん……どないしたんや?」俺は思わず関西弁になった。

 土下座するおっさんを立ち上がらせようと腕を持つ。おっさんはゆっくり立ち上がりながら事情を話し出した。

【コーレイナウイルスを撲滅できるのは、声量に自信のある奴やと思ってる。だからお前らのイベントを見た時、確信した。お前ら二人の声量と、音域は武器になる。俺の国を救って欲しい。だから俺は五年振りに孝之の元に現れたんや】

「答えになってなぁーい!」

 千景は、喚きながらも、ワクワクしてきたのか、子供のようにはしゃぎだした。納得いく説明ではなかったが、千景は興味津々だ。

「おもしろーい! タカちゃんって、ちょっと不思議な雰囲気醸し出してたけど、まさか異世界の人と繋がってたんやねえ!」
「えっ? そこ?」

 食いつくところが違うぞと、感じながら俺は千景のワクワクする姿見て少しホッとした。
 納得いかず揉め事になっても、この異世界では、どうしようもないとも思ったからだ。

【コーレイナウイルスって知ってるか? 知るよしもないか?】
「高齢なウイルス?」
【そうや。このウイルスは、人の頭、海馬に影響を与え、徐々に物事が考えられないようになるウイルス】

「は? そんな物があるんか?」
【ああ! これは現実に俺の国で起きた出来事や】
「……あっ、うん」
【このコーレイナウイルス……。これ自体には対して害はない。ただ、このウイルスは孝之……。さっきお前が言った高齢なウイルスということや。要は高齢者がかかると少し厄介なウイルスちゅう訳……】

「ダジャレかい!?」俺はおっさんに思わずツッコむ。

【まあ聞け。このウイルス自体は、風邪の一種と何ら変わらん。やけど、厄介なんは、高齢者がこれにかかると、基礎疾患の腐敗を助長するっちゅう厄介な病や。ほんで、この国の高齢者は殆ど全員あの世に旅立った】

「こわっ!」
 俺は有害なものなんだと思いながらも少しおかしいと感じた。

【怖いんは、ウイルスちゃう。今さっき歩いてった奴らを見たやろ?】
「あっ? ああ……」あやふやな返事をするとおっさんは続けた。

【このウイルス自体はただの軽い風邪にかかるぐらい。しかし怖いんは、ウイルスじゃなくて、モノが言えない族、口無しにさせられると言う現実や】
「物言えない族? 口無し? なん〜だ? それ……」

【モノが言えない族、口無しとは、感情を無くし、ただマスクをさせられ、奴隷のように働かされる。意思表示や自分の感情すらなくなってしまった人達のことや】

「感情すらない?」

【お前ら、さっきのマスク人間達を見て、何か違和感を感じへんかった?】
「あっ……」

 ふと振り返る。マスク姿で歩く人たちは、まるで意思を無くしたデクの棒……。否、ゾンビ映画のゾンビを見ているように虚な瞳に意思がまるで無い空っぽの動物にも思えた。

 おっさんが俺に目を向けると、親指を立てて【ご名答】と言う。

【それがモノが言えない族。口無しや……】と小さく頷いた。

「ああ……」何となく理解ができた。

【そう。口無しってのは、強制的にマスクをつけさせられて、言いたいことが何も言えなくなった人々】

「言えなくなった?」

 俺は興味深く頷きながら答える。おっさんは重要な事と言うように人差し指を立てて説明をする。

【そうや。コーレイナウイルスは、この関西国を滅ぼすために作られた、口無しを作るための兵器。それが俺の見解や】

「はあ? どいうこと?」

【兵器を作って持ち込んだのは、この国の党首、おばーばや……】
「おばーば?」

 俺は次々出てくる言葉を頭の中で整理しながら、おっさんの話に食い入る。千景も興味津々なのか、少し怯えながらではあるが、話を聞いている。

【ああ、この国の党首。おばーばは、四年前に就任した】
「四年前? 党首?」

【これまでの政権システムでは、四年置きに党首を交代するシステムになっとった。やけど、おばーばが政権を奪った際、任期四年のシステムを排除した。そして対立する組織を潰すべくこのウイルスを開発した】

「えっ……? 内乱ってこと?」

【そうや。おばーばが政権を獲るまでは、平和で国民皆が幸福度も高い国やった……】

「そうなんだ」

【だが、おばーばがトップになってからっちゅうもんは、国民同士の争いが起きた。対立する奴らを黙らしたい……。そんな思いがあり、おばーばは、殺人兵器を作った。だから皆んな口無しにされてもうたんや】

 呆気に取られるが、おっさんの言葉は続く。

【元々この国には、おばーばに反抗心を持った人が多くいた。だが、おばーばは、国を支配したいため、反抗する人間たちを洗脳し、口無しにした。……いや、強制的にマスクをつけさせる政策を打ち出した】

「えっ……」

 びっくりするようなおっさんの話に思わず唾を飲む。

【このウイルスは、人の体温を奪い、頭で考えさせること、そして声を発することを出来んようにするために作られた兵器や】

「なるほど……。それで俺たちもココに来た時、体温が無くて、喉に違和感があったんか……」

【そうや。このウイルスは、上空から空中に散布され、知らぬ間に脳を萎縮させ、海馬がやられてしまう殺人兵器や……】

 俺たちはそれを聞いて身震いした。同時になぜ俺たちが連れて来られたのか疑問に思った。

◉続・僕の中に関西人のおっさんが住んでいる
帰ってきた関西人のおっさん。俺と千景の神隠し
作者:北条むつき
朗読:水無月とあ。

第4話:解放

「なあ、おっさん。なんで俺たちを連れて来たんや? 少しさっき言いかけてたけど……」

 千景は俺の言葉に頷きながら、おっさんの言葉を待った。おっさんは俺と千景の顔を見て目を輝かせた。

【お前らが声優で出演したイベント会場で、俺は孝之たち二人の掛け合いを見た。その時思った。この声量、音域は武器になる。もう俺の国に後が無かった。だからお前たち二人に国の命運を託したくて、こっちの世界に飛ばした】

「それはわかったけど、声量? 音域って何や?」

【ああ、一般の人たちと違い、お前らの声には特徴がある。それは聴きやすさもそうだが、声が届く距離。一番は声が感情や心に突き刺さる。気持ちを掴むことが出来る声……。それが口無しを開放できる武器になると俺は知ってる】

 目を輝かせ説明するおっさんの口元は少し先程とは違いニコリとする。安心感を演出したい為なのか、急に俺の肩を叩き大丈夫やと促す。さぞそれは、実証済みだと言いたい様でもあった。

【口無しを解放するには、海馬に訴え掛けられるぐらいの音域と声量が必要だと言うこと。安心せい……イベント会場で実験済みや】
「俺たちの声が? 解放の武器になる……? もっともらしい言葉だけど、何を言えば届くの? それがイマイチ、ピンとこないわ」

「そうね……」千景も同じ思いか頷く。

 するとおっさんが言う。

【じゃあ、辺り彷徨う口無したちを、お前らの声で解放してみ? 出来る筈。お前らの声は海馬を活性化出来ることは立証出来てる。でも、俺と、お前らだけでは、おばーばーは倒せん】

「どう言う意味?」

【おばーばを倒すには、俺たちだけじゃなく、コーレイナウイルスに疑問を持った人たちが束になり、声を挙げて戦わないと、この国は救われへんってことや……】

「だから……。どうやって……」

 するとおっさんは、ある装置を胸ポケットから取り出した。

「えっ?」

【お前らの声は、国の連中と違った周波数がある。特別な周波数の声で叫ぶと脳の海馬が刺激できる】

「海馬?」

【ああ! これはイベント会場でお前が爆星と言った時に取った数値。俺たちの国の声質とは明らかに違う周波数をお前ら二人は持ってることがわかった。口無しを解放出来るんや】

 何となく強引な説明でもあったが、おっさんに促され、俺と千景は、歩道をゾンビの様に歩く人たちに向けて叫んだ。

「聞いてくれ! 口無しよ! 海馬に届け!」

 千景と二人、道ゆく人々に向けて声量いっぱいに呪文の様に叫ぶ。

 すると……。右往左往していた人々が、声に反応したのか一瞬足が止まる。
 俺たちの声が届いているのか、虚な目つきだった人々の目に輝きが戻り始めた。その姿を見ておっさんが言う。

【いいぞ! 続けてくれ!】

 おっさんに促され、俺たちは言葉を何度も何度も続けた。

「海馬に届け!」

 凄く簡単な言い回しだが、何度何度も言い続けていると、意識朦朧と歩くだけのデク人形かゾンビたちが、正気を取り戻す様に、目つきを変える。

 声で足を止め、自分が今まで何をしていたのか、分からなかった人たちが、自分の手を見たりする。
 そのうち、マスクをしていることの違和感に気づきマスクを外す。

 するとマスクを外した男性は大きな深呼吸をした。息を吹き返す様に、次の瞬間自我を取り戻し声を発する。

「おっ、俺は……いったい何を……」

 千景も海馬に届けと続けている。千景の言葉に次々と意識を取り戻し、我に返る人々がいる。

「俺……。何をしていた?」
「私……。どうしてたの?」

 周りで人々が集まりマスクを一斉に外し出す。

「おぉ! 何かが、今までと違う。この白い布切れは、何だ?」

 歩く人たちがマスクに違和感を感じ、自分を取り戻す。

【おぉ! やはり間違いちゃうかった! 孝之……。ありがとう!】

 ゾロソロと歩いていた周辺の異様な人々。口無しは正気を取り戻し、急にお互い言葉を交わしだす。
 ひとりが目覚めれば、ひとりが正気を失っている人たちのマスクを剥がしに回る。
 マスクを外すと、一瞬電池が切れたかのようにフリーズし固まるが、正気を取り戻す。
 人間らしい会話や笑顔が溢れて出てくる。

【おお! お前らのお陰やあ! 解放されてる!】

◉続・僕の中に関西人のおっさんが住んでいる
帰ってきた関西人のおっさん。俺と千景の神隠し
作者:北条むつき
朗読:水無月とあ。

第5話:関西国党本部前

 数日前、この異世界、関西国に連れて来られた俺と千景。大阪の道頓堀だと思っていた場所は、関西人のおっさんの故郷である関西国の都市ナンバーゼロという街だった。

 この街で、俺と千景はおっさんに国を救ってくれと懇願された。
 俺と千景の仕事は声優。その声優の声量と声域を使い、ゾンビのように群がりただ街を歩くだけの口無しに声を張り上げた。
 すると嘘みたいな話だが、頭の海馬を刺激された口無し達は、我を取り戻し、自覚がある人へと変貌した。

 最初は限りある人数だったが、この数日間、俺と千景は、おっさんに連れられ、街中をただ歩き回っている口無し達を目覚めさせることに成功する。
 解放する人数が増えると、人間に戻った数は数千万を超えた。
 一人の意識が目覚めると、俺たちの声量を使わずとも、白いマスクを剥がしにかかる人々……。それで街を練り歩くだけの存在だった口無しは、一気に覚醒し、物が言えない族から、人間へと覚醒し蘇った。

 そうなると、意思を持つ人々は、今までの政権下で何をされていたのかすぐに気づく。
 皆んな一斉に声を出し、おばーばがいる国党本部へデモ隊として行進し始める。

 ここは関西国の政治の中心部、関西国党本部前……。
 おっさんと俺と千景。そして解放された人々はデモ隊を作り、今、おばーばがいる関西国党本部前で、国旗を広げ、数千万人が一体となり、声を出しおばーばを引き摺り下ろそうと声を張り上げていた。

「出てこい! おばーば! お前らの悪事はもうバレている!」

 マスクを外せた事で、正気を取り戻した人々が集まり「おばーば、交代!」と呼び叫ぶ。

 リーダー格の男が、民衆を束ね、声を張り挙げ訴えかける。しかし、路上のデモ隊、数千万人を見下ろしている本部党員の姿は見えるが、おばーばは一向に現れず、こう着状態が続いていた。

 デモ隊の中には、もう我慢の限界を向けている者もいるのか、石や、武器になるものを本部ビルへ投げつける者も現れていた。

 俺と千景、おっさんも本部前に集まっていた。

「どうすんだ? おっさん……。このままじゃ埒があかない!?」

【わかったとるわい! だが、この数千万のデモ隊は、もうメディアも無視できん数になって来たわ!】

「それはいいけど、他に策はないの?」

【大丈夫や。おばーばは、元々堪え性ない奴……。じきにこの騒動を鎮めようと顔出す!】

 おっさんはそう言ったが、こう着状態は続いていた。
 ……と、この群衆の先頭に、大型バス車両が何台も本部ビル前に集結した。

【ほら見ろ! 焦ってる証拠だ】

 何か動きがある様だ。それをじっと見ていると、大型バスから、防護服を着た医師と看護師たち、男女大勢が降りてくる。そして……。

「この街中にコーレイナウイルスは蔓延しております。あなた方は、コーレイナウイルスにより、意識が錯乱状態です。今からあなた達に向け、コーレイナ除去注射の摂取を開始します!」

 その言葉の後、防護服の男女達は、大型ライフルのようなものを持ち、デモ隊に向けて照準を合わせた。そのライフルの先には注射器のような物が付いていた。

【やはり、来たか!】
「くそっ! そうすんの!?」

 俺と千景も叫んだ。デモ隊。群衆に向けてライフルを向けられた。
 撃ち殺されるのかと思い、先頭から一旦引き下がるようにおっさんに促される。

「目覚めた人たちが……!」

 俺はデモ隊先頭にいる人たちが心配になった。だが、おっさんの腕に引かれ後退させられる。
 その後ライフルはデモ隊先頭に打ち込まれた。

「うわっ!」

 打ち込まれたライフルは、銃弾ではないようだ。
 頭に食らった人を見ると、それは何かの注射器の様なモノが額に突き刺さって悲鳴があがる。
 だが死にゆく人の悲鳴ではない。
 人々は倒れるどころか、俺と千景が、この異世界に来た時に見たマスク人間のように、突然意識朦朧とし正気を失い、口無し族に逆戻りしていた。口無しになった人は、無言で列をなして歩き出す。

「なんだあ!? 殺されない!?」俺は叫ぶ。

【やはりか……。殺すより支配し先導たい思いが強いらしいな。おばーば!】

 おっさんは叫ぶと、デモ隊に注射器を打ち込ませまいと、全員に後退するよう呼びかける。前方にいる人々はライフル注射を打ち込まれ、モノが言えない族、口無しに変貌しヨタヨタと歩き出す。

 千景の腕を取り、本部ビルから数百メートルダッシュをして引き下がった。
 千景は、何かに気づき、俺に声をかける。

「ねぇ……。タカちゃん……。タカちゃん!」群衆に紛れて声を張る。
「ん? なんだ? どうしたの?」
「これ! 使えないかな?」

 千景は名案を思いついたのか、自分の腕に付いているバクオンジャーに変身するデジタルウォッチを指差し言う。

「バクオンジャー! 変身!」

 そんな無理だろ! ……と、思っていると……。

 千景は叫んだ後、光とオーラに包まれた。普通の人間から、爆音戦隊バクオンジャーのサポートキャラ、爆実(ばくみ)へと姿を変えた……。
 まさか、そんなことが出来るとは思ってもみない。
 千景の一瞬の起点を利かせた変身で、本部前の抗争は一気に形成逆転にみえた。

「千景!」俺は千景が心配になり、俺も右腕に付けている変身デジタルウォッチに叫んだ。

「バクオンジャー! 爆星降臨!」

 その行為に、関西人のおっさんが叫ぶ。

【お前ら!? 何を!?】

 おっさんの声が聞こえた後、国党本部前の玄関扉がゆっくりと開いた。ビル内から巨体を揺らし、悪どい目つきをした団子頭に白髪、顔が大きく体が太っちょのおばあさんが姿を表した。

『ヒーヒッヒッヒッ! 面白い奴がおるのぉ!?』

 俺たちの変身を見て、異様な者が現れたと思ったのか、最後の砦である、おばーばが登場した。

 その姿は、人間とは思えない図太い図体。巨大な頭を付け、獣の様に鋭い目つきのおばあさんの姿。青いワンピースから覗かせる老いた手足とは裏腹に、一振り腕を振るうと、デモ隊の人間達が軽く後方へ吹っ飛ばされていた。

「何だとぉ!? このパワー、奇獣じゃねぇか!?」

 まるで、爆音戦隊バクオンジャーに出てくる獣の如く、巨大な力だった。

「おばーば!」

 爆実に変身した千景が、おばーば目掛けて、武器である爆音を唸らせ手刀を振り下ろした。おばーばーはその攻撃を簡単に交わし、腕を一振りした。

「千景!」

 俺は名前を叫んだ。しかし千景は簡単に俺の後方へと吹き飛ばされる。
 突然俺の頭の線が、ブチっと切れる音がした。体が勝手に動き、おばーば目掛けて飛びかかっていた。そして俺の武器である爆声(ばくせい)、大声をおばーばに浴びせるべく、大きく息を吸い叫ぶ。

「おばーば! お前! 許さん!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ん……ん……?」

 何か違和感を感じた……。

「誰が、おばーばだって? しかも許さんやと?」
「えっ……」

 一瞬ココがどこだか分からなかった。

「よくも、まあ、母親に向かって、おばーばって……。まだ私は四十超えたばかりや! 孝之! 早う起き!」

 ここは俺の部屋だった……。ベッドの掛け布団をめくり上げ、たたき起こす母親の姿だった。

「えっ……ん? えっ……」俺は戸惑い辺りを見渡す……が、ただの俺の部屋だ。

「えっ ちゃうわ! 早よ起き! アニメーションスクールのお友達、千景ちゃんだったっけ? 女の子が来てるで」
「えっ……」

 夢……? 夢やったんか?

「はあ、もうこの子ったら、また変な夢でも見てた? 余り女の子待たせたら嫌われるで?」母親はそう言うと、扉を閉めて出ていった。

 確かに、ココは俺の部屋だった。おばーばと戦っていたはずなのに……。

「ってか、夢? マジで……嘘やぁ……」俺はまた関西弁で言う。

 期待の新星の売出し中の声優……。だったはず……。呆気に取られながらも、千景を待たせるわけにもいかず、俺は着替えを済ませると、ボディバッグを持ち、朝飯も食わずに玄関の扉を開けた。
 今日はとても朝からいい天気で、日差しが眩しい。

「おっはー!」

 元気よく挨拶する千景を見て、俺も挨拶をする

「おう! おはよう……ごめん俺、寝坊した……」

 今まで通り普通に応えたつもりが、俺を見て呆然とする千景がいる。

「えっ……。タカちゃん……。いつから僕から俺になったん?ってか、私のこと……千景って……」
「えっ……? 何か変?」
「うううん……。なんかカッコいい! どうしたの? 何? 何かあったでしょ?」

 尋ねた千景に俺は応える。

「とんでもない夢見たんや! なんか夢で大人気声優になってた。で、おまけにそこで俺って言うてたなぁ……って」
「えっ……。タカちゃん、それ……私も今朝見た!」

 切り返す千景は、とある物を俺に見せてくる。

「なんか知らないけど、こーんな物が私の鞄に入ってたんよ」
「えっ……」

 それを見た瞬間、俺は固まった。
 千景が鞄から出した物は、おばーばー本部で戦った際、ライフルから打ち込まれた注射器と、爆音戦隊バクオンジャーの変身アイテム、バクオンジャーウォッチだったからだ。


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