朗読動画:恋愛小説:欲に満ちた世界 第21話相談と言葉の意味

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◉連続小説ドラマ
 欲に満ちた世界

作者 北条むつき
朗読 いかおぼろ

◉第21話相談と言葉の意味

 その日、私は姉のマンションを飛び出した。
 由雄さんのあのいやらしい目つきと言葉に嫌気がさした私は、帰ってきた姉の言葉など無視して出ていった。

 また数日ホテル暮らしでもしようと、駅前の昨日神崎さんと泊まったホテルに向かう。しかし今日は満室だということで、泊まることはできず、仕方なく私は大阪の繁華街をスーツケースを片手にウロウロとしていた。

 また神崎さんに出くわすんじゃないかとコンビニに立ち寄り、飲み物を買った。だけど、その日は深夜帯でもないためか、ナンパ男にも、ましてや神崎さんにもできくわすことはなかった。

 その時会社で考えていたことを思い出した。
 昨日神崎さんに借りたホテル代を返す段取りで、神崎さんにメッセージを送ってみようと、今朝のホテルの朝食後、別れ際に交換したメッセンジャーアプリを立ち上げた。

【お疲れ様です。昨日はありがとうございました。伊月です。昨日お借りしたお金を返却したいので、いつでもご連絡いただけるとありがたいです】

 するとすぐに既読が付いた。

「あっ!」と思わず声に出たら、すぐに返信が返ってきた。

【お疲れ様です。昨日はこちらこそお酒付き合ってもらえてありがとう。返却? いつでもいいですよ? それとも昨日の件でまた何かあったかな? 少し心配です】

 丁寧な言葉で返信が返ってくる。そして私は今会いたい思いが募る。私は意を決してメッセージを送ってみた。

【神崎さんは、まだ出張中ですか? お時間あれば、ご相談に乗っていただけませんか?】

またすぐに既読がついて返信が来る。

【大丈夫? 僕でよかったら、相談に乗るよ? 仕事はあと15分ぐらいで終わりだから、食事でもしながらどうですか?】

 私は神崎さんに頼りっぱなしになっているかな? と少し思ったけど、こんな心強い男性いないと思い、【お願いします】と返信すると待ち合わせ場所を指定された。

※※※※

 大阪梅田の繁華街。JR沿線沿い、ジャパンリビングの本社ビルにほど近い、食堂街で私と神崎さんは落ち合った。

「ごめんね? 遅くなって」と現れた神崎さんは、今朝と同じスーツ姿だ。
「いえ、こちらこそありがとうございます」と頭を下げると、昨日借りたお金を差し出した。
「あぁ〜、いいよいいよ」と言う神崎さんに対し、私は「ダメです!」と言い返す。

 すると「じゃあ、今日は食事奢ってもらおうかな? それでチャラで」ととぼけた口調で言ってみせた。

 こういう笑顔を、昨日あたりから見せてくれるようになったなぁ……と少しクスクス笑うと、「どうしたの?」と尋ねてくる。

「いえ、じゃあ、今日は奢らせてください!」と私は「こっち……」と神崎さんを食堂ビルに誘った。

 最上階まで上がると、景色の良いレストランがある。そこは以前姉とランチを食べた場所だ。そこで今日は神崎さんとディナーをすることになった。

「いらっしゃいませ」と黒ベストを着たウエイターが席に案内してくれる。男性とこういうお店に来るのは、ずいぶん久しぶりだなぁ……と私は相談事にも関わらずちょっとしたドキドキ感を味わう。

 席に案内され、注文、配膳されると、私たちは昨日と同様に「乾杯」とグラスを合わせた。神崎さんは、口に少しお酒を含むと私に尋ねてくる。

「どうしたの? ちょっとびっくりしたけど、やっぱり昨日の件で何かあったんだね?」

 私は意味ありげにコクリと頷《うなず》いた。

何と説明していいのか……。少し戸惑うと、まるで昨日の出来事もわかっていた様に私に尋ねてくる神崎さんの姿があった。

「お姉さんの……旦那さんだよね?」

 私が説明しなくとも、この人はわかっていたんだと思い知らされた。
 それにも私はコクリと頷く。すると神崎さんは、「警察沙汰にはしたくないんだよね?」と昨日と同じ言葉を吐いた。

 「……はい……」私は小さく頷き、神崎さんの目をみて言った。

 神崎さんは、額を指で掻いて、上を向いて「うーん」と唸った後、名案を思いついた様に「なるほど」と頷き直した。

「えっ……」

 私は、少し戸惑った声を出した。すると神崎さんは、魔法使いか霊能者の様に、私と和姉の旦那さんとのやりとりを口にする。

「旦那さんに、襲われて、怪我はない? そこが一番大事」
まるで見てきた様な物言いにびっくりしながらも私は「ありません」と答えると、もう一度上を見て、口を尖らせて考える仕草をした。

 また今度も思いついた様に手を叩くと、神崎さんは言葉をゆっくりと言う。

「家は出たほうがいいね。それに、嫌じゃなければだけど、間《あだい》に入ろうか?」

何もかもおんぶに抱っこの様な口ぶりに私はびっくりして、思わず答えた。

「神崎さんに何でもお世話になりっぱなし……。何でそこまでしてくれるんですか?」

 私は自分の言った言葉に戸惑い、次の神崎さんの言葉を思わず待ってしまった。

 神崎さんは戸惑うことなく、私に真剣な眼差しを向けて言い放つ。

「伊月さん……。君が気になるからだよ」
「えっ……」

 私は、その言葉に顔を赤《あからめ》た。


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