※補足1:画像は正午阳光官方频道(正午陽光公式チャンネル)で公開されている中国大河ドラマ『清平乐 Serenade of Peaceful Joy(邦題:孤城閉 ~仁宗、その愛と大義)』より引用
※補足2:各単語のカッコ内に発音のカタカナ表記を記載するが、カタカナでは正確な中国語の発音を再現できない為、あくまでイメージとしての記載に留まる。
トップ画像は、若い仁宗が劉太后(前工程の皇后)の補佐によって政治を行っていた際の朝議の風景だ。台詞は仁宗が自分の見解を述べた後、補佐役(と言いながら実権を持つ人物)の劉太后に「儿子说得对吗(儿子=息子、の私が言っている事が合っていますか?)」と意見を伺っている。
朝議とは社会課題に対する政策を決定する国家の中枢会議であり、いわゆる現代で言う所の国会に相当する。自然災害や日食期間、皇族や重臣の逝去、紛争や皇帝の体調不良などの理由によって休会する事もあったが宋王朝では基本的に「毎週1回」の朝議が開かれていた。
①记住了(ジージューラ/jì zhù le)
朝議の場で巧みに劉太后を批判した仁宗であったが、逆に彼女にやりこめられてしまった。彼が悔しそうな表情で、「大娘娘的提点、儿记住了(太后のお言葉を、私の心に刻みます)」と言っている。「大娘娘(ダーニャンニャン/dà niáng niáng)」は敬意を込めて年長の女性や高い地位にある女性を呼ぶ時に使う言葉。「お母様」「おばあ様」といったニュアンスになる。「提点(ティーディエン/tí diǎn)」は「アドバイス」「指示」といった意。儿(アー/ér)は儿子=息子、すなわち自分の事を言っている。
注目するべき朝廷言葉は「记住了(ジージューラ/jì zhù le)」。これはよく大河ドラマで見かける表現だ。「记」は日本語漢字で「記」。これは「心に刻みます」「必ず覚えておきます」といった意味になり、目上の者から進言を受けた際の尊敬を込めた相槌として使われる。
②岂敢 岂敢(チーガン チーガン/qǐ gǎn qǐ gǎn)
岂敢(チーガン/qǐ gǎn)は「とんでもございません」「滅相もございません」などの意味を持つ、恐縮や謝罪を意図する言葉。ここで重要なのは、文脈に応じて例の中国語における「二度重ね」の方法を用いる必要があるという事。ここは宰相の吕夷简(りょいかん/lǚ yí jiǎn)が強く諌言(いさめる)場面であるが、それでいて角が立たないよう慇懃無礼に「あなたを批判する意図は御座いません」という意思を示すべく、丁寧に二度重ねの「岂敢(チーガン/qǐ gǎn)」を口にしている。
③以儆效尤(イージンシャオヨウ/yǐ jǐng xiào yóu)
宦官の守忠が劉太合に自分の非を深く謝罪する場面。「以儆效尤(イージンシャオヨウ/yǐ jǐng xiào yóu)」はひとつの成語で、その意味は「悪い手本を懲らしめて、他の者が同じ過ちを犯さないようにする(してください)」となる。
④起来 起来(チーライ チーライ/qǐ lái qǐ lái)
平伏している守忠に対して劉太合が「もう良い、立ちなさい」と声を掛けている。この状況も中国大河ドラマでは非常によく見る光景のひとつ。ここも「起来/qǐ lái)」という一語で意味としては通じるが、その場合のニュアンスが「おい、起きろ」と強くなってしまう為に「二度重ね」の法則を用いている。守忠は劉太合の体裁を守る為に敢えて失態を犯しており、劉太合もそれに気が付いているのでまったく怒りを示していない。
⑤原来如此(イェンライルーツ/yuán lái rú cǐ)
これは日常語だ。この文脈では少し異なる使われ方がなされているが、一般的に「原来如此(イェンライルーツ/yuán lái rú cǐ)」は「なるほど」「そうなのか」の意味となる。相槌表現としては非常に優秀な言葉なので、こういった一般表現を翻訳の中に盛り込む事は有効性があると私は感じる。
例:
呉用)いえ、今は退却をするべきです。
宋江)なぜだ?
呉用)ここから先の地形は伏兵が隠れられる場所が多くあります。この状況は罠である可能性が高いと思われます。
宋江)原来如此(イェンライルーツ/yuán lái rú cǐ:なるほどな)…これは気付かなかった。では、そのように林冲たちに伝えよ。
⑥主題歌
言い回しとは関係が無いが、中国大河ドラマ『清平乐 Serenade of Peaceful Joy(邦題:孤城閉 ~仁宗、その愛と大義)』の主題歌についてもメモをしておこう。かなり味わい深い詩になっていて、とても気に入っている。作者は张靖怡、朱朱。内容は次の通りだ。(多く登場する「君」とは「きみ(あなた)」ではなく、「君子(皇帝)」である主人公の仁宗の事。)
国有城兮城四方(国に城ありて城は四方にあり)
城有君兮仁以长 (城に君ありて仁をもって長く治む)
臣忠能兮为栋梁(臣は忠を尽くして梁を支え)
君有后兮持正方(君には後継ありて正道を守る)
子皆寿短储落旁(子らは皆、寿命短くして、後継は疎かになり)
女亦娇拗终惶惶(女は愛らしくも頑固で、終には不安に苛まれる)
然民亦皆君子女(されど、民もまた皆、君の子女なり)
市井平宁百姓康(市場は平穏にして、百姓は健やかに暮らす)
惟愿我能一日为己(ただ願わくば、我が身を一日でも為せるように)
从心从孝勿思复礼(心から孝を尽くし、礼を復することを思わず)
为夫恣情于内(夫としては内に情を尽くし)
为父舐犊于膝(父としては子を膝に抱きしめる)
识卿于初无疏离(初めて卿を知りて、疎遠なことなし)
但愿吾能尽节其欲(ただ願わくば、我が欲を全うし、尽力を尽くすことを)
亦君亦父勿忧旦夕(また君として、また父として、日々の憂いを忘れずに)
慎乃君德之首(慎重こそが君徳の第一義)
民为天下根基(民こそ天下の根基なり)
为四海平宁何敢恣意(四海の平穏のため、どうして自らを恣にできようか)
※今回の題材は中国大河ドラマ『清平乐 Serenade of Peaceful Joy(邦題:孤城閉 ~仁宗、その愛と大義)』の第二集。YouTube動画(英語・中国語)のリンクは以下の通り。
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