【紅の痕(くれないのあと)】

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 都の北辺にある壊寺に、その日、ひとりの浪人が雨を避けて足を踏み入れた。

 夕刻であった。空には灰のような雲が垂れ下がり、長らく干上がっていた石畳に、ようやく水気が沁み入りつつあった。
 その浪人は、破れた袴に袖を引きずり、腰の刀もすでに鞘が朽ちていたが、手放せぬと見えて、やけに大事そうにその柄に指を添えていた。
 名を問えば、答えなかった。ただ、どこかで首をはねられ、名乗るべき主も地位もとうに失ったような風情であった。
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