「大黒柱」であることの重圧、
そして「自分らしく生きる」ことへの不安――
本音を語り始めた内科医と、その心に寄り添う心理士の対話。
🌿責任感が強すぎて、疲れてしまう方へ。
ASDやHSP傾向を持つ方向けに、
カウンセリングの視点で具体策をお届けします。
医師という責任ある職を手放し、休職中の黒川さん。
「休むこと」さえも罪悪感につながり、
自分の価値を確かめようと、無意識に努力を重ねてしまいます。
それは、語学、読書、受験勉強にまで——。
しかし、篠原カウンセラーの言葉により、
少しずつ「何もしない自分」にも価値があると気づき始めます。
自分を責めず、評価を求めず、ただ生きるとはどういうことなのか。
心のリハビリの真っただ中で揺れ動く感情と、
静かに変わりゆく内面の記録。
あなた自身の「立ち止まる勇気」を見つめ直す時間になるかもしれません。
[1]🛌休むは再出発の準備(前話の続き)
「それはそうと、私は今、何をすべきなのでしょうか」
私(篠原)とのカウンセリングが佳境に差しかかったころ、
黒川さんはふと視線を落としながら、そう問いかけました。
これまで、医師として、父として、そして夫として
──多くの役割と責任を背負ってきた黒川さん。
妻との関係性、息子の進路、
そしてご自身の「生き方」そのものを見つめ直す対話のなかで、
ようやく「自分のために立ち止まる」という思考が芽生えたのです。
「休むことが必要です」と語った私は、
その黒川さんの問いに、次のように答えたのです。
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👩⚕️篠原:
黒川さん、
ご自身の「これから」を考えようとするお気持ちが芽生えてきたこと、
本当に大きな一歩です。
「休んでいい」と言われても、すぐには納得できない方が多いんです。
特に、黒川さんのように、責任感が強く、
他者の期待に応えようと努力を重ねてきた方はなおさらですね。
ですが、「休む」という行為は「何もしない」ことではありません。
それは、
「今まで置き去りにしてきた自分の感情」や「無理をしてきた心身」を、
ようやく「主語」にしてあげる時間です。
家事をすることも悪くはありません。
ただし、それが「罪悪感を打ち消すための行動」になってしまうなら、
逆に疲れてしまうかもしれません。
今の黒川さんにとって大切なのは、
「やらなければ」を手放して、
「やりたい」から動く小さな行動を選ぶこと。
「休む」はリセットではなく、「再スタートの準備期間」なのです。
[2]💧償いより回復を選ぶ
👔黒川さん:
罪悪感を打ち消すための行動、ですか・・・
妻にはすまない気持ちがあります。
私より少ない収入で生活費と子供達の学費を工面しようとしていますから、どうしても、何か妻の負担を減らさなければいけない、
と思ってしまうのです。
👩⚕️篠原:
その「申し訳なさ」は、
黒川さんがご自身の内面と誠実に向き合っている証だと思います。
そして同時に、それは「今の自分では足りていない」という
否定的な自己評価にもつながりやすい状態です。
ただ、奥様が本当に望んでいることは、「家計の足しになること」よりも、「あなたが潰れないこと」ではないでしょうか。
負担を減らそうというお気持ちは尊いですが、
それが「償い」になってしまうと、
結果的にご自身をさらに疲れさせてしまうかもしれません。
黒川さんの役割は、「罪悪感を原動力に何かをやること」ではなく、
「心と体を整えて、
再び家族に向き合える自分に戻ること」かもしれませんよ。
奥様の「支えたい」という気持ちを信じて、
まずは「しっかり休む」ことを、自分自身に許してみてください。
[3]📚行動よりも「余白」を
👔黒川さん:
「償い」になってましたね。
今の私の状態から考えると、
あまりいい言葉でも、いい状態でもありませんね。
とにかく今は、ひたすら「休むこと」、
これに尽きますね。
実は、医師から事務職へ移ったとき、
比較的時間に余裕ができたものですから、
つい好きな書店巡りをしたり、本を買いあさってました。
それから、もともと勉強が好きだったので、
医学以外のことを身に付けようとしてしまったんです。
当時、上の子が大学受験を目指していたので、
私も英検や高校の大学受験科目を勉強しようとしてしまったのです。
目的を持ったというより、何かやってみたい、
もう一度大学受験をやってみようかな?と思ったくらいです。
仮に合格しても、自分にはまだ高校生と同じような学力があるんだぞ、
と誰に認められるわけでもないのですが、
やってみたくなったのです。
上の子の刺激にもなるかな?なんて思いましたけど。
その当時、診ていただいた心療内科の先生から、
「あなたは頑張り屋さん過ぎるね、ちょっと頑固な面があるね。
もっと気楽に生きましょうよ。」
とアドバイスされたのですが、
せっかく時間の余裕ができたのですから、ついがんばっちゃったんです。
でも、受験本番の季節頃になると、事務職と並行が難しくなり、
学力もそんなに伸びなかったので、勉強をやめたのです。
さらに語学もやってみたりしまして。
英語だけじゃなく、
中国語や、スペイン語や、フランス語や、ロシア語など。
国連の公用語とされる語学を、やってみようとしたのです。
結局どれも、頓挫したのですけどね。
👩⚕️篠原:
黒川さんが、「何かをしたい」と思われた気持ちは、
決して間違いではありません。