技術士建設部門論文Ⅰ 記述の要点(Dxの課題を例にした考察)

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こんにちは、PE-SUZUKIです。

いきなりですが、
技術士は専門技術における高度な知識や特殊な能力を求めるものではありません。
必要とされるのは状況把握、問題点の抽出、実施する課題の整理、そして実行とその先を予測することです。
これは研究開発、設計、生産、現場対応などの各ステージの違いや営業、受注活動、見積もり、実施などの業種の違いなどにはよりません。それぞれでやっていることに対してどのようにアプローチするかが問題となります。 
そして、技術士試験はその能力を備えているかを確認する試験なのです。
であれば何が必要なのかはおのずと見えてきます。

どんな課題であれ、
1-現状がどうか(現状把握)
2-どんな問題が生じているか・何が問題の原因なのか(問題点の抽出)
3-問題を解決するにはどのようなことをすればいいのか(課題の整理)
4-実施するとどのようなことが起きるか(実行と予測)
を順序だてて示すことが必要です。

では、実際にはどこがうまくできていないのでしょうか?
2022年度Ⅰー1試験にある”DXの課題”を例にして順番に整理していきます。
まずは(1)課題の抽出からです。

 現状の課題を抽出するというのはどういうことでしょうか?
 当たり前のようですが、「現状がどうか、それによりどのような問題が生じているか、どうあるべきか」、ということを説明することです。
 DXの課題は大きく①生産性の向上、②生活の質の向上に寄与する、という二点となるでしょう。
論文作成の際は課題をこの2点に持っていくための記述が必要です。いきなりこの二点が課題です、と言っても説明にはなりません。まず現状がどうかを述べ、それをどのような形にしていくべきかを簡潔に述べなくてはなりません。しかし、この”簡潔に”というのがなかなか難しいのです。多くの論文ではここが多過ぎなことが良くあります。(添削の対象となるところです。)
一方、簡潔にした時の落とし穴が控えています。
 文章を簡潔にするということはどういうことでしょう?会社などでレポートを書く時によく言われる「結論から先に書く」ということを思い浮かべますね。
 確かに結論を書くことは文章を簡潔にします。しかし、ここで間違えてはいけないのが、結論の意味です。今の課題の結論は①生産性の向上、②生活の質の向上に寄与する、の二点です。これを取り間違えて最終の結論にしてしまうことが良くあります。つまり、①生産性の向上、②生活の質の向上に寄与する、のために何が必要かということを書いてしまう人がいます。これでは文章の展開が難しくなり、説明が饒舌になります。
 文章の構成を考え、それぞれの段落で何を書かなければいけないかをはっきりさせること、これが課題の抽出ということになります。
 DXの課題①生産性の向上、②生活の質の向上に寄与する、という二点について、例えば以下の記述が考えられます。
「現状では生産性が低く、これを向上させる必要がある。また国民の生活の多様化に適応した環境の構築などに寄与する必要がある」
確かにこれは課題ではありますが、問題点が明確ではありません。ここで必要なのは現状の具体的な問題点を簡潔に述べることです。問題点を具体化することで、課題とその先にあるするべきことが明確になるからです。
 具体化するのに一番いいのは数字を挙げることです。例えば外国に比べ生産性がこれだけ低いとか、過去からの生産性の伸びがこれだけしかないというのが最もよくわかります。また、他の産業に比べDXの導入がこのように遅れているという具体例を挙げるのもわかりやすいかと思います。
 記述の流れとしては
  大きな問題点の列挙→それぞれについて具体的な問題点の説明
となります。ここで具体化することが次の記述につながっていきます。
 具体的に上げていくと(例えば)
 ・手続きに要する時間と資源が多大である(手続きに時間がかかる、書類の提出など)
 ・過去の情報が紙ベースで転用しにくい
 ・完成データの書式が統一されていないため流用できない
 ・業務の効率化(自動化など)と手続き業務が一元化されていない
 ・技術革新に労力が必要になる 
等が挙げられます。このように具体化することが次に求められる施策に結び付きます。
大事なことは問題点と課題を混同しないこと、問題点から課題を抽出することです。

課題がある程度具体的に抽出できたら次はその解決策の提示です。
論文を作成するときには最初に思いつく解決策をすべて列挙してみましょう。その時に、
・短期的/中長期的
・人的/物理的
・直接的/間接的
・自力(努力)/他力(政策、制度)
・国内/海外
等の見方で考えて下さい。多面的かつ総合的な見方は技術士に求められる能力の一つです。
解決策は一般的に言われていることで十分です。特に難しく考える必要はありません。求められることは問題点に対して大きくカバーするようにすること、一つの対策で複合的な対策を提示できることなどです。例外や特異事項についてはそれほど気にしなくてもいいです。問題点で上げた事項はすべてカバーできるように項目をそろえておく必要もあります。
これらの解決策から、論文の長さも考慮してどれが適切かを選択します。
ここでも記述はまず大きな対策の方向を示し、そのあとで個々の具体策を示すという形にすればわかりやすくなります。
 解決策はほぼ何らかの形で公になっています。建設白書や、国土交通省の各種政策報告を見れば出ています。また、他の人が作成した回答例を数例集めてくればほとんどが網羅できるはずです。
それでは具体的な記述を考えてみましょう。

DXの活用に関する課題は大きく3つあります。(国土交通省の報告などをご参照ください)
1.手続きのデジタル化
2.情報の高度化とその活用
3.現場作業の遠隔化・自動化・自律化
課題の前段となる問題点を簡単にまとめておきます。
-1.許認可、承認の手続きが非効率であり、時間を要する。また、書面での提出求められる場合が多く、資源を消費する。
-2.関係者間での情報共有が紙ベースで行われている部分があり、平面的な図面の理解に個人差が生じるなどする場合があり、より分かりやす資料が求められる。また、データの活用、流用が限定的であり、非効率である。
-3.将来の人口および建設労働者減少が懸念されており、現場作業、流通の効率化を進め、建設業をより競争力のある魅力的な業種とする必要がある。

もちろん問題点はいろいろと思いつくことと思います。自分の言葉で表現できるのが望ましいので、内容をかみ砕いて理解してください。
その時、頭に入れておくことは課題の数です。例えばDXについての課題は3つあることを覚えておけば、試験の時に3つ書くと意識し、抜けがなくなります。また、一つ一つを言葉で覚える努力より、”3つある”ということから記憶をたどるほうが思い出しやすい場合もあります。ただし前提として”3つを思い出せるまで何度も勉強する必要があります。

これらの課題に対し解決策を提示します。基本は”何をするためにどうする”という形を示すことです。
例えば手続きの簡素化、ペーパーレス化、のために電子データをウェブ上でやり取りするデジタル化を行う。そのためには行政手続きの簡素化・プラットフォーム化、業界全体でのデータフォーマットの統一、などを行う。
情報の高度化については扱いやすい3次元データ(BIM/CIM)でデータの共通化、一般化を図るとともにインフラデータを公開することでだれでも活用できる環境を作り競争力のある業界にする。また情報伝達に各種データを活用する。
等の説明があればいいかと思います。これらを実現することでどのような将来像が描けるかも一言付け加えるとよりわかりやすい説明になります。

問題点の抽出同様、課題の解決策についてもいろいろと考えて、できるだけ挙げてみてください。その中からどれを書くのがいいか、どのように書くのがいいかをじっくり考えてみてください。
また、課題の解決策は別な設問(テーマ)に対する解決策と共通することが多いのです。例えば「将来の建設業人口の不足に対する解決策は」とか、「品質確保のための方策は」という問題があったときに、デジタル化、合理化、可視化、データの三次元化、などはいずれも解決策になりうるものです。
行政との情報のやり取り、プラットフォーム化、BIM/CIMも同じように回答となります。いろいろな問題点は現状をいろいろな角度から見たときに浮かび上がる課題であり、それを解決する方策もいろいろな側面を持っていて互いに関連しあっているということです。
先に述べたように、解決策をできるだけ挙げて、自分の言葉、考えで表現できるようにしておくことで設問に対して幅広く対応できるようになります。いくつかのテーマで回答論文を練習で作っていくと気づきますが、違う設問に対して同じ解決策が何度も出てくるものです。課題と対応策の関係をきちんと整理することが試験対策の一つのポイントとなります。

解決策実施時のリスク予想と対応策、技術者としての要件について要点を考えます。
以下の課題を解決するためのプロセス、結果によって予想されるリスクをまず考えます。
各課題に対する施策は以下のようなものが考えられます(これがすべてではありませんが)。
1.手続きのデジタル化:オンライン化(クラウド)による工期の短縮、検査書類等のデジタルデータ化による効率化
2.情報の高度化とその活用:図面情報の3D化、地形データの共有化と活用、BIM/CIMの活用、設計データのデジタル化により製作、据え付け情報への流用、インフラの情報共有による維持管理計画、気象データなどの活用による災害被害の減少・環境問題への対応
3.現場作業の遠隔化・自動化・自律化:測量のデジタル化、ロボット、ドローン等の活用、画像等の情報を用いた現場管理・危機管理
リスクを考えるときの基本的な軸は人・モノ・金です。
人;人材が確保できるか、教育に時間がかからないか
モノ;品質の低下が生じないか、資源を確保できるか、機材は不足しないか
金;コストがかからないか、将来に借金を残さないか、
等のリスクが浮かんでくると思います。
これに短期/中長期的な視点からの網をかけて考えます。
例えば人材に関しては
短期:適切な人材を確保できるか、教育をどのように実施するか、企業規模による不公平が生じないか
長期:高齢化する中でどのように人材を確保し続けるか、自動化による余剰人員が生じないか
などが挙げられます。
同様にモノ、金についても挙げてみて、その中から重要と思われる項目を一つか二つずつ挙げれば全体的に問題をカバーできると思います。
人・モノ・金は相互に関係しあっています。全体的にリスクを抽出して重複するところをうまくまとめてください(人材確保にコストがかかる、余剰人員再教育のシステムが必要である、など)。
全方位的にリスクを挙げられれば十分です。奇をてらった視点などは必要ありません。

続けて解決策実施時のリスクに対する対応策です。
リスクの抽出の最後のところでも述べたように、人・モノ・金は相互に関係しあっています。重複するリスクをまとめておくことで対応策を簡潔に記述することができるようになります。
例えば余剰人員が生じる、DXに対する教育が必要であるという二つのリスクに対し、余剰人員を適正に配置転換するための教育システムを業界全体の対応で構築する、AIなどを利用し取り組みやすいシステムを作る、などが直接的な対応として挙げられます。さらに一歩進んで教育に対して行政、業界団体が補助・助成を行う、といった対応策に対する対応策まで挙げられれば理解の深さを示すことができます。
このようにして各種リスクに対する対応策を列挙していくと、共通した対策がいくつか出てきます。情報の高度化に対し人材が追い付かない、遠隔化推進に対しシステム構築及び運用の人材難、などのリスクに対しても教育、システムなどの推進、行政・業界団体全体としての助成などが共通する対策として挙げられます。
人だけでなく、モノ・金についても同様に、開発の推進、中小規模の業者にとって負担の少ない方法の模索など考えていくといくつか大事な対策が見えてきます。これらをまとめていくと汎用のプラットフォーム化、人材教育システム、行政と業界一体となった支援、などが思い浮かぶと思います。自分なりに項目をまとめて、いくつを最低書かなければいけないかを覚えておくといいと思います。実際に記述するときに「4項目あった」ということを思い出せば抜けがなくなります。
前にも書きましたが、何度か記述を書いてみて項目をすぐに思い出せるようにしておくことも必要です。
最後の部分は技術者の資質として何が求められるかを記述する部分です。
2022年度の設問を正確に記すと「業務を遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要点・留意点を述べよ。」となります。
ここでいう技術者は”技術士である技術者”と考えます。何を倫理や行動の要諦となるかの考えを示せ、ということです。
具体的な記述の前に、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)を見直しておきます(詳しくは技術士会のホームページをご参照ください)。
技術士会では、・専門的学識・問題解決・マネジメント・評価・コミュニケーション・リーダーシップ・技術者倫理、の7項目を資質能力として挙げています。このうち、最後の技術者倫理を理解しておく必要があります。
技術者倫理については「公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、文化および環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代に渡る社会の持続性の確保に努め、・・・倫理的に行動すること。」と記されており、いわゆる”公益”を優先して行動することを求めています。
論文の記述もこれに沿って
・公衆の安全(業務の安全な実施、安全安心な社会インフラ、自然災害の予知、環境保全など)
・健康及び福利(自然環境の維持、多様性への対応、コスト削減による負担の減など)
を務めていくという記述でいいかと思います。
問題文では社会の持続性についての記述も求められています。技術者倫理の中にも社会の持続性が含まれていますが、出題の意図としては昨今のSDGsへの対応についての考えを求めていると思われます。従って”持続的な発展”に求められるものを素直に書くべきです。
例えば
・インフラの長寿命化、予防保全。強靭化。
・環境保全と多様性
・健康、生命の安全、大規模災害の予測と災害対応
等を記述しておくべきです。そして、最終的にこれらを通して公益をもたらすという姿勢が必要です。
記述の際には可能な範囲で概念だけでなく、具体的な実施項目を記述するといいでしょう。
注意していただきたいのは、自分の業務に関連したものに偏重した記述ではなく、全般を網羅した記述にしてください。例えば現場工事の経験が主だとしても、インフラ整備の話や工事の話に偏ることなく、環境や多様性、災害予測なども抜けの無いように記述してください。それらすべての資質を備えていることが技術士として求められていることです。

以上技術士論文Ⅰの記述におけるポイント、留意点などを記してきました。
全体をまとめると
・抜けの無いように大きな視点からの記述をする。
・時間をかけて問題点、課題、対策を洗い出しておく。
・ポイントになる記述がいくつあったかを覚えておく。
・問題点→課題→具体的対策の流れを意識して記述する。
・問い(求められる記述)に対応した内容を、必要十分な量で記述する。
・理解の深さを示せるようなフレーズ、事例を準備しておく。
等を意識することでわかりやすい記述を作成できると思います。
奇をてらったり、自分の専門性を主張したりする必要はありません。むしろそのような専門性はあまり主張せずに抑えて、幅広い知見と理解の深さを記述することを心掛けたほうがいいでしょう。
出来上がった論文を読み返すと、一般論を体裁よく述べているような物足りなさがあるかもしれません。しかしながら、求められているものは特別な内容ではなく、公知の事実をきちんと偏りなく適正に記述できているか、ということであるため一般論的なものにならざるを得ません。逆に言えば多くの記述をいかに偏りなく、適正かつ適度な深掘りをしてコンパクトに記述できるかが勝負となるのです。
(以上)
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