ツインレイ 3 38歳年下の彼に惹かれていく 

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今でも清掃員をしているが、彼に出会った当初も清掃員をしていた。体育館の掃除である。校友会と呼ばれるクラブ活動をする学生たちがたくさんいる。その横を申し訳なさげに通って帰る私だった。
何回か毎日続けてみんなからオッスと言われたが、今さらのような気がして返事できずにいた。それでもちょうど我が家には、頂いたみかんがたくさんあったのでいくつか持っていき、事務局の人に代わりに渡してもらおうとしたが、「そんなことしなくてもいいわよ!第一何人いると思っているの?そんな数じゃ足りるわけないじゃないの!」と言われてしまい、彼らとの和解の機会を失ってしまった。
自分で渡せるほど勇気がなかったのである。
彼らとの急速な冷えを感じた。自業自得だったが、あとになりせっかく声をかけてくれたのだから、どうにかしたいと思った。
体操や準備運動をしている彼らに小さな声で「さよなら」と言った。たぶん「お先に失礼します」とは言わなかったと思う。だって彼らはその構内のどこかの建屋で寝起きしているんだもの。
すると一人の学生がオッスと言ってくれた。
ホッとした。
彼は奥で準備運動をしている学生に「別にいいじゃん」と言った。
私はそれだけですべてを察した。彼らのほとんどが挨拶を無視した私を許してはいなかったのである。私はそう感じた。
自業自得とはいえ、悲しくて寂しい気持ちで自宅に帰ったのを思い出す。

彼らは海に面した長い公園を走っていることもあった。走っている団体とすれ違いそうになり慌てて上に上ったこともある。そして日が過ぎて私は元々の配属先に移った。
もう彼らと絡むこともないと思うと、ホッとする気持ちと残念な気持ちが交差した。

ところで私は、彼らが体育館の広い玄関で準備運動をしていたため、てっきり体操部かと勘違いしていた。勘違いしたまま元々の配属先に移ったのだ。当時はまだ土日も交代で午前中だけ仕事をしていた。大浴場を掃除する仕事である。車を運転する人と組めばすぐに着くが、車に乗れない人と組んだら大浴場まで行くのに、グラウンドの横を通った。私も車には乗れないからだ。

陸上部がこれから運動するところだった。一人が大きな声で「こんにちは!」と言った。こちらに言ってるのはわかったが、私はたまたま仕事を組んだもう一人と二人で歩いていた。大柄のもう一人がグラウンド側を歩いていて、その人が「こんにちは」と言った。大柄の人の陰に隠れるように歩いていたので挨拶をしそこなった。私の行動はこんなものである。情けないのである。あとで思えばこんにちはと声をかけたその学生はツインレイの彼だった。再び私は無視してしまったのである。それと体育館で私に挨拶を返してくれた学生が「いいじゃん別に」と言った相手も後から考えたらツインレイの相手だったような気がした。
この時まだツインレイという言葉を知らない。
グラウンドで私に「こんにちは!」と言った彼の気持ちを推し量った。申し訳ないと思った。私って駄目な人間だなとさげすんだ。

ところが、挨拶さえまともにできない私を彼はあきらめなかった。
午前中はトイレ掃除。いくつか似たような建屋がある中、私はある建屋の担当だった。全部やるのに一時間ほどかかる中、次々とトイレ掃除をやっていると個室から誰か学生が出てきた。学生は、洗面台を掃除している私の横で手を洗いながら私の顔を覗き込んだ。

ちょ! 何この人!

私はちょっと馬鹿にされたと思って完全に無視したがそれはツインレイの彼だった。

お昼はよく学校に入っている食堂に行った。海鮮丼のお店で私のお気に入りだ。イクラ、マグロ、いろいろ入っていて好みだ。種類も豊富である。でも同じものばかり食べていた。イクラを始め好きなネタばかり入っていたからだ。
お腹も膨れて満足して器を返して出ようとすると、後から珈琲を買いにきた彼が店主としゃべっていた。彼の割と低い声を初めて聴いた私は、実はドキドキしながら相変わらず彼を無視した。彼の顔も見ずにお店を出る私。

防大生の彼は、私に会うととても大きな声で敬礼してくれた。それはとても感動した。思わず深々とお辞儀をした。帰りがけにはちょうど門近くで出会った。必ず大きな声で敬礼してくれた。

私の仕事の同僚は車通勤の人が多く、中には駅まで車に乗せてくれたが、ほとんどはいつも断った。せっかく乗せてあげようという気持ちを不意にしてしまう私であったが、私には同僚には言えない理由があるのだ。敬礼してくれる彼とすれ違うことができなくなるのがいやだったのだ。
彼がどうして私にアプローチを繰り返すのか分からぬまま、私は少しずつ彼に惹かれていった。

だが、私と彼の年の差は38歳もある。
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