登場人物紹介
十二将 天部を代表する十二の武神。
このうち下記の七神が登場します。
一将、日天 帝釈天(部長)の補佐役。性格はオットリしているがツッコミは鋭い。
無茶ばかりする火天を目に掛けて捕まえてはお説教をする。
三将、地天 十二将の中では最も人間との関わり合いが深く、性格は温厚で豪快。
誰とも距離を置きたがる火天に良き理解者。
四将、水天 人間嫌いで有名、火天とは仲が悪い。
六将、帝釈天 天部を統率する役割にある武神、いわば部長。
怒らせると物凄く怖い。
八将、焔摩天 地獄を統率する役割にある閻魔様。
十将、火天 死にたがりで有名、水天とは仲が悪い。
十二将、梵天 帝釈天に匹敵する実力者で十二将を統括する責任者。
いわば統括本部長。
十二将の関係性
六将、帝釈天の下に一将~十一将までが指揮下に入る。
十二将、梵天は天部全体を代表する総責任者。
如来(大日、阿弥陀) 仏界のトップ、いわば取締役。
八大竜王 天照の側近、高天原における重鎮にして長老格。いわばご意見番。
宇賀乃御魂神 稲荷の総元締め、火天に頼まれて燐を見守る。
天照 高天原の総元締め。立場的には代表取締役社長。
燐 神剣を持つことを許された人間、霊能者。
優樹菜 悪霊に取り憑かれた女性、燐のクライアント。
由香里 優樹菜の姉、悪霊に取り憑かれている。
早百合 優樹菜の娘、一途な祈りで天部を動かす少女。
お母さんを助けて
誰か・・・・助けて・・・。
誰か・・・ママを助けて・・・。
(またあの声か)
「十将殿、如何致した?」
「ああ、なんでもない。
人間の『声』が聞こえただけだ」
「ほう・・・・」
「珍しいですな、十将殿に声が届くとは。
その者を捜しては如何ですかな?」
「やめておく、そんな面倒くさいことは」
書類の束を「トントン」と叩くと気持ちを切り替えた。
「さて、と今日は如何なることがあったのですか?」
「それについては四将、水天から報告させよう」
天部を代表する十二天が集う十二天将会議。
武を司る帝釈天と文治を司る梵天が集う十二天将会議においては最重要事項が常に議題として上げられる。
この日もそうなる筈だった。
お願い
誰か、ママを助けて
「おい」
「ああ」
顰めっ面の火天に対して、厳しい顔で地天が問い質した。
「これがお前の言う『声』か?」
「そうだ、うるさいだろう?」
「そうだな、五月蝿くはないが・・・ここまで届くとなると相当な『願い』だぞ?」
「どうした、何事だ?」
二人の会話を四将、水天が問い質した。
「人間の声が聞こえてな」
「下らぬ」
斬り捨てるように呟いた。
「人間如き掃いて捨てるほどいるではないか。
わざわざ構うことはない、奴らの好きにさせておけ」
「相変わらずだな」
諸神諸仏の中において最も人間嫌いで有名な四将、水天。
彼の物言いは常に斬り捨てるように鋭く強いものがあるが、その実力は誰もが認めるものだ。
その一方で変わった趣味(嗜好?)を持っているので、それを理解することは難しいと言われている。
「そんな物言いはないだろう?
お前が人間嫌いなのは知っているがな」
温和で有名な三将、地天が噛み付くように水天に抗議した。
彼は最も人間に近い立場にあり、同時にありとあらゆる獣達を統率(守護)する役割にある。
そのため神々の中では珍しく人間寄りの考えをすることで有名だ。
「やれやれ・・・」
議長役の六将、帝釈天が呟いた。
「二将とも、よさないか。
十将、その声の主はいずれお前の元に現れるだろう。
その時は力になってやることだ」
「珍しいですな、御身が十将、火天殿に勅命を下されるとは」
八将、焔摩天(閻魔様)が驚きの声を上げた。
「たまには良いでしょう、帝釈天殿。
甘露水(お酒)を会議中に召し上がれるのはお控え願いたい」
帝釈天に唯一匹敵する実力者の十二将、梵天が注意した。
「あ、い、いや、これは・・・」
「まあ良いでしょう、大目にみます。
それよりも四将水天、十将火天、三将地天」
「な、なんでしょうか?」
「もしその声の子供が心よりの『願い』ならば何を置いてもその力になってあげなさい。
何かしら関わっているでしょうからね」
ありとあらゆるものを見通す梵天の鶴の声だった。
「十将殿、少しよろしいか?」
会議場から退出しようとする火天を一将、日天が呼び止めた。
「なんなりと」
「そう嫌そうな顔をされなくてもよろしいですよ、今日はお説教ではありませんから」
苦笑交じりに答えた。
「(見抜かれていたか)それではここで話をするのもよろしくはないでしょう、外で行いませんか?」
「そうですね、それが良いでしょう」
それぞれに手に持っていた書類の束を腹心の部下に手渡して外に向けて回廊を進んでいく。
途中ですれ違う警備兵が慌てて敬礼したり、文官達が横に退いて二人に対して礼を尽くす意味で軽く頭を垂れた。
「一将殿の話というのはもしや」
「そのもしやです」
「(やれやれ、物好きなことだ)もしそうだとしたら如何されますか?」
「その相手次第ですね、単純に命乞い(注:病気や怪我の回復を願う)をするだけなら私達が出ることはありません。
菩薩様か尊者の皆さんの担当領域でしょう」
「そうですね」
悪霊や死霊、神格を失った悪神や狂神といった元神や元仏と戦うことを担当する十二天と彷徨っている者達を導く菩薩や尊者ではそもそも役割が違いすぎる。
それを日天は簡潔に指摘した。
「ではもし私達の担当領域だとしたら?」
「その時は火天である十将殿、あなたの出番でしょう。
その時は私が出る幕はありません」
歩きながら話をしつつ、外へと通じる扉を開けた。
そこは殺伐とした雰囲気の漂う会議場とは違って爽やかな気配が漂う草原だった。
草木や花が舞い、穏やかで澄んだ空気が流れていた。
風が優しく吹き抜けていく一方で小動物達が跳ねたり飛んだりするなど、思い思いの時間をゆったりと過ごしていた。
「さて、一杯如何ですか?」
「甘露水ですか?」
「いいえ、違います、普通の水ですよ」
にっこり笑って火天に答えたが、微かに怒りが滲み出ていた。
そのせいだろうか?
今まで思い思いにゆったりと過ごしていた小動物達が慌てて逃げ出した。
「あーあ、動物たちが逃げてしまいました」
「誰がそうさせたのですか、誰が」
「まあまあ」
日天の怒りをなだめるように言うと、二人連れ立って草原の中へと足を踏み入れた。
「ところでその『声』は如何なことを言っているのですか?」
自分と同じように草原に片膝を立てて水を飲んでいる火天に対して、前置きなしに質問をぶつけた。
「最初は幼い子供のようでした」
「・・・・」
「それが段々と声の質が変わり、大人の女性の声へと変わっていきました」
「と、なると・・・・声変わりですね」
「そのようですね」
にこにこと笑顔で聞いていた日天の顔が曇った。
「そのような幼子の願い、聞き入れるべきではありませんか?」
「(また甘いことを)日天殿の悪い癖が出ましたねと四将あたりが言いそうですな」
「あの方の人間嫌いは筋金入りですからね、今更どうこう言われても響きはしません」
三将、地天ほどではないが一将、日天も人間との関わり合いは深い。
そのため、水天などに比べると時に人間寄りの考え方をする傾向がある。
「いずれにせよ今はまだ動きません。
というより動けないと言うべきでしょう。
相手の願いが何かによっては担当領域が違うのでそちらに任せます」
「そうですね、それが良いでしょう」