2026年(令和8年)1月1日に施行された改正行政書士法(令和7年法律第65号)は、無資格者による違法な書類作成代行(非弁活動・非行政書士活動)の「抜け道」を完全に塞ぐ、非常に強力な内容となっています。
特に、企業や個人事業主が「顧客サービスの一環」や「コンサルティング」として、親切心で行っていた行為であっても明確な法律違反として処罰されるリスクが激増しました。
1. 2026年改正の法的根拠と中核(抜け道の完全封鎖)
今回の改正で最も重要かつ実務に影響を与えるのは、行政書士法第19条(業務の制限)の明文化と、両罰規定の整備です。
【改正後】行政書士法 第19条(業務の制限)
「行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務(※官公署に提出する書類の作成など)を行うことができない。」
これまで無資格者は「書類作成自体は無料(サービス)で行い、名目上はコンサルティング料や事務手数料としてお金をもらっているから違法ではない」と言い逃れをしていました。しかし今回の法改正により、「コンサル料」「システム利用料」「月額顧問料」「支援委託費」など、どのような名目であっても、実質的に書類作成を行って対価を得ていれば違法(行政書士法違反)となることが条文上明確にされました。
2. 【事例別】無資格者が善意・悪意問わずやってしまいがちな違反
法改正後、業種を問わず多くの事業者が陥りやすい具体的な違反事例を挙げます。「知らなかった」「顧客を助けたかった(善意)」は一切通用しません。
① コンサルタントによる「補助金・助成金」の申請書類作成
よくある状況
中小企業診断士、経営コンサルタント、税理士などが、顧客の「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」の申請をサポートする際、ヒアリングをもとにコンサルタント自身が申請書のテキストを執筆・作成してしまう。
法的見解(違反)
補助金申請に関する「助言」や「指導」自体は無資格でも可能です。しかし、官公署へ提出する事業計画書等の書類(電子データ含む)を直接作成し、「成功報酬」や「コンサルティング料」を受け取る行為は第19条違反となります。
② 登録支援機関による「外国人材のビザ・在留資格」の書類作成
よくある状況
特定技能外国人の支援を行う「登録支援機関」が、受け入れ企業から毎月の「支援委託費」を受け取っている中で、親切心から出入国在留管理局へ提出する在留資格認定証明書交付申請書などの作成を代行する。
法的見解(違反)
登録支援機関ができるのは「生活支援」や書類提出の「取次ぎ(お使い)」までです。支援委託費という包括的な報酬を受け取っている以上、「書類作成は無償サービスです」という言い分は法改正により完全に否定され、違法となります。
③ 不動産会社や内装業者による「許認可」の書類作成
よくある状況
店舗物件を仲介した不動産屋や内装業者が、顧客のために「飲食店営業許可」や「深夜酒類提供飲食店営業開始届」などの書類を代わりに書いてあげて、その手間賃を「事務代行手数料」として初期費用に上乗せする。
法的見解(違反)
典型的な行政書士の独占業務の侵害です。「手数料」という名目であっても第19条違反となります。無償であったとしても、本業の契約(不動産仲介料など)と一体不可分であるとみなされれば、実質的な報酬を得ていると判断されるリスクが高いです。
④ SaaSベンダー・システム会社による「申請書自動生成・入力代行」
よくある状況
月額課金(サブスクリプション)のクラウドシステムを提供している企業が、システム上で許認可書類を自動生成するサービスを展開し、ユーザーが入力に迷った際に、カスタマーサポートが「代わりにシステムに入力して書類を完成させてあげる」。
法的見解(違反)
システム利用料という「名目」で報酬を得て、個別具体的な行政手続の書類をシステム提供者側が作成・加筆訂正する行為に該当するため違法となります。(※ユーザー自身がすべて入力し、システムが単にフォーマットを出力するだけであれば適法ですが、人的な入力代行が介入するとアウトになります)。
行政書士法における「個人の履歴書や職務経歴書」の取り扱いについて、
無資格者が報酬を得て個人の履歴書・職務経歴書を作成する行為が違法(行政書士法違反)になるかどうかは、「その書類の最終的な提出先(目的)がどこか」によって180度変わりまます。
1. 【適法】「民間企業」への就職・転職を目的とした作成代行
提出先: 民間企業(株式会社、一般の病院、NPO法人など)の人事部や採用担当
法的見解
適法(行政書士法違反にはならない)
転職エージェント、キャリアコンサルタント、あるいは有料の退職・転職サポート業者が、顧客の民間就活用の履歴書や職務経歴書をヒアリングして「代筆・作成」し、対価を得る行為は、行政書士法違反には問われません。
なぜなら、民間企業に提出する就活用履歴書は、自己アピールのための「私的な申告書」という性質が強く、行政書士法第1条の2が保護の対象とする「官公署に提出する書類」にも「厳密な意味での法的な権利義務・事実証明に関する書類」にも該当しないと解釈されるためです。
2. 【違法】「官公署(行政機関)」への提出を目的とした作成代行
提出先
入管、都道府県庁、警察署、保健所などの行政機関(官公署)
法的見解
違法(行政書士法第19条違反)
前回解説した通り、同じ「個人の履歴書」であっても、それが「許認可やビザ申請のために、行政機関が提出を求めている書類(またはその添付書類)」となった瞬間、法的な性質が全く別のものに変わります。
これは行政機関が要件審査を行うための「官公署に提出する書類」そのものとなるため、無資格者が報酬を得て作成(代筆)することは、いかなる名目(コンサル料、支援費など)であっても明確な法律違反となります。
3. 「事実証明に関する書類」の正確な解釈
行政書士法には、独占業務の一つとして「事実証明に関する書類の作成」という規定があります。ここで「履歴書は個人の経歴という事実を証明するものだから、すべて行政書士の独占業務ではないか?」という誤解(拡大解釈)が生じがちですが、これは法的に正確ではありません。
行政書士法が独占業務とする「事実証明に関する書類」とは
社会生活において、法的な交渉や手続きの基礎となるような、客観的かつ厳格な証明力を持つ書類を指します。(例:実地調査に基づく図面、会社の議事録、会計帳簿、契約書に関連する念書など)
個人の履歴書の扱い
個人が自分の記憶に基づいて書く一般的な履歴書は、法律が独占業務として縛るほどの「厳格な事実証明書類」には当たらないと解釈されています。
【例外として違法になるケース(事実証明書類に該当する場合)】
ただし、個人に関する経歴書類であっても、以下のような場合は「事実証明に関する書類」として無資格者の作成が違法となります。
「実務経験証明書」や「在籍証明書」など、過去の雇用主等から公式に社印をもらって経歴を法的に証明・確約する性質の書類を、無資格者が報酬を得て代理作成・手配する場合。
違反した場合の重大なリスク(両罰規定の導入)
今回の2026年改正により、無資格者による業務制限違反に対して「両罰規定」が新たに整備されました。
これまで、企業の一社員が勝手に無資格で書類作成代行を行っていた場合、処罰されるのは「行為を行った個人のみ」でした。しかし法改正後は、違反行為を行った従業員本人だけでなく、その従業員を雇用している「法人(企業)」に対しても罰金刑が科されることになります。
企業側のリスク
「うちはコンサル会社だから、担当者が親切で書類を作ってしまっただけだ」では済まされず、法人が行政書士法違反で処罰され、社会的信用を失うばかりか、他法規の許認可(宅建業や登録支援機関の登録など)の欠格事由に該当し、事業停止に追い込まれる危険性があります。
まとめ
2026年の行政書士法改正は、「書類作成の対価をごまかす言い訳」を一切許容しない強硬なルール変更です。無資格者は「アドバイスやコンサルティング(方向性の提示)はできても、官公署へ提出する書類の作成・キーボードを叩いて代筆する行為は一文字たりとも行ってはならない」という大原則を、社内で徹底する必要があります。