♪ 【小説#20】 足漕ぎ自動車を飼った男の話

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♪筆者の 或 頁生(ある ぺじお)と申します。
拙作の有料配信ページにアクセスいただき、ありがとうございます。
直近にアップの 『コラム』 記事内でも、同作品に関する補足説明を綴っています。


♪お察しの通りです。
全文無料配信中の前作(=#19)の原作が、こちらの拙作です。
原作のほうが遥かに長文と言うあたり、我ながらの天邪鬼(笑)。
ちなみに既に有料配信中の、他の拙作の物語の設定の、これまた 『元ネタ』 的な部分も含んでいたりします。


閑静な住宅街の公園に放置されていた、新品同様の足漕ぎ自動車の佇まいに、不思議な愛着と親近感を覚えた自宅療養中の浩。
持ち主の迎えを待つ手助けになればと、リハビリを兼ねて日々様子を伺うべく、足を運ぶのが日課になっていた。
そんなある日のこと。
「おじさんがそれを飼ってるの?」
問いかけの声に振り返ってみると…

(※本文総文字数(実数)=6868)


【足漕ぎ自動車を飼った男の話】



「ねえねえ、みさ!?あれなに?」
「うん!新しいそうじ。きゃはははっ」

決まったな。
相変わらず彼女のネーミングセンスは抜群だな。
『新しいそうじ』
悪くないな。


1

樹齢百年単位と思われる落葉樹と常緑樹がランダムに並ぶ、閑静な住宅街の公園の背の低い茂みの奥に向かい、そっと手を振る影がひとつ。

「じゃあまた来るからな」
隣接する幼稚園からは、朝の元気なごあいさつの声が届くこの場所。
その前には、かつてその高額な分譲価格が話題となった、5階建ての高級マンション。
微妙に点在する子ども用遊具は劣化が進んだまま、パンダやイルカの乗り物には前衛的なお化粧が施されて久しく、いずれもが風雨で剥げ落ちかけていた。
ゲートボールや駆け回って遊ぶにはいささか狭い、なんとも残念な設計ゆえ、愛犬の散歩以外にこれといった利用価値を見出せない空間だった。

踵を返した男の背中をじっと見つめる2つの真ん丸目玉は、瞬きどころかその視線を一切動かすことはなかった。
風雨を凌ぎつつも屋外生活が数週目となれば、車体の汚れや細かい傷が、そろそろ目立ち始める頃。
幼児用のピンクの足漕ぎ自動車は、こうして日々男の手によってこの定位置に戻され、本来のご主人さまにお迎えを待ち続けていた。

最初に男が公園内でその姿を見かけたときには、持ち主が一時的にその場を離れているとしか思えなかった。
新品同様の綺麗な車体にピンク色がよく似合っていて、
「これって結構高いんだろうな」
ところが意外なことに、翌日も翌々日も放置されたまま。
風雨に晒され、訪れた人間たちに移動させられては居場所を変えるその姿が、男には可哀想に思えてならなかった。
だからと誰かの所有物である以上、勝手に持ち帰るわけにはいかない。
ならばと深緑色の隙間からピンク色が確認できるこの場所を、仮称ピンクちゃんの一時的な住まいにしてあげようと。

この日も単独のリハビリを兼ねてこの場所を訪れたその男は、杖の先にこびりついた半乾きの土と雑草をコンコンとはらい落とし、いつもの帰路に着いた。
時は世の中が黄金週間を見送り、ふたたび日常の生活サイクルを取り戻したであろう、皐月中旬。


2

「おじさん、それ飼ってるの?」
背後からの突然の可愛い声に振り返れば、そこには小学校低学年くらいの女の子の姿が。
「雨に濡れて可哀想だからね。そっかあ…飼っていると言われたら、そうかもしれないね」
そんな初対面から他愛もない会話を探っていると、見知らぬ男と一緒の姿に気づかれたのだろう。
おばあちゃんと思われるご婦人が穏やかな表情を浮かべ、2人と足漕ぎ自動車が集うその場所に、ゆっくりと近づいてきた。

男は西村浩55歳。
自らの事業に行き詰まり多額の負債を背負い、妻子と離籍から懸命に働いてようやく完済を果たすも、皮肉なご褒美ならぬ代償が届いてしまっていた。
子どもが多感な時期に離れて暮らしたことも一因となったのか、人生の目標だった家族再集合は叶わず、この町で独り暮らし。
無理がたたったのだろうか、悲鳴を上げてしまった己が肉体に戸惑いと苛立ちを隠し切れぬまま、実社会復帰の術を探る日々を過ごしていた。

足漕ぎ自動車を『飼っている』って感性は、さすが純粋無垢な子どもだな。
それより平日の午前、今日は学校の授業があるハズなのに…電車通学の私学が休校日なのかな?

彼女のおばあちゃんとの初対面の挨拶から、当たり障りのない会話を交わす中、可愛い声の素敵な提案が。
「ねえねえ。この子『ピンクちゃん』って名前にしようよ」
仮称ピンクちゃんが正式な名前に昇格した瞬間、足下の真ん丸な目玉の全面が、嬉しそうに笑ったように思えた。
「ところで君の名前は?おじさんは西村浩っていうんだよ」
「たなかみさ…じゃなくって、えーっと…やまなかみさ」


3

「そうでしたか」
風邪をひいてしまったみさを部屋に残し、時間を見計らって姿をみせてくれた祖母の話で、すべてが理解できた。
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