トイレの神様

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コラム
禅宗のお寺のトイレには『烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)』という仏様の像が飾られているところがあるそうです。


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『トイレの神様』ならぬ『トイレの仏様』ですね。

ですがこの仏様は、インドの神話において『アグニ』という炎の神がもとになっているとのことですから、やはり『トイレの神様』といって良いのかもしれませんね。

この仏さまは、炎で不浄を焼き尽くすとされています。

表情は厳しく、睨みるけるような眼は、穢れが恐れをなして寄り付かなくなるだどうと感じさせる鋭さです。

不浄を清めるためにトイレに『烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)』お札を貼る風習などがあるそうです。

しかし、トイレを汚すのは他でもない人の行いなのです。
誰の目もない場所では、その人の本当の心が現れます。

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これは私が占い師になりたての頃のお話です。

『マヤ暦』に出会い、占い師になる事を決意した時に、なぜか脳裏にトイレの便器の映像が浮かびました。

そして咄嗟に「占い師になるために必要なのはトイレ掃除をすることだ!」と悟ったのです。

すぐさま駅で見かけた掃除をしている女性に声をかけ、どうやったら掃除仕事につけるか?会社名は?と戸惑う女性に詰め寄り、電話帳で清掃会社の電話番号を調べ、雇ってくれないか?と直談判したものでした。

面接では「まだ若いのに」「あなたなら他に仕事がいくらでもあるでしょう」などと言われましたが、
「私は雇ってもらえないのですか?」とうつむき加減に上目遣いで潤ませたような眼で訴え、何とか雇ってもらいました。

入社し、制服に着替え、向かった先は札幌駅の構内。
1日の利用者数は約12万人と比較的大きな駅。
観光客が多く利用し、『旅の恥は搔き捨て』とばかりに様々な人が行きかう場所でした。


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初めての掃除の現場で感じたことは、人はいかに残念なのかという事。

床を汚しても平気。
朝の混雑時に列に割り込んでも何食わぬ顔。
洗面台を占領してメイクをしても、誤って掃除用具をけって倒しても素通り。
人が少なくなった時間に掃除をしても、不満を直接口にするのは当たり前。
トイレットペーパーを持って帰る、家のごみをトイレに捨てる。
それを注意しても知らんぷり。
ひどい時には、若い女性が男性トイレで掃除しているのを面白がって、わざと自分の排せつ物がかかる様にしたり、ご自分のをアピールする行動をされる方もいました。

これらの事をしていたのは、ガラの悪い不良でも、年端のいかない子供でもありません。
しっかりとした洋服をまとった社会人が殆どでした。

掃除の仕事に就く前はホステスだった私にとって、それは驚くことばかりでした。

夜の街で一通り、人の心の隙間や、見えない部分を見てきたつもりでしたが、更に奥深い部分を見せつけられたような感じでした。

そしてその時、ようやく掃除の仕事に就いた理由が分かったのです。

今まで見えていなかったことを見るためなんだと。

トイレでは普段見せない一面が現れます。
それは一緒にトイレを利用する程度では見られない姿です。

掃除スタッフという、一般的に気にも止められない存在だったからこそ、見られたのです。

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私はその事実を醜いと感じました。

同時に許せないと思いました。

真面目な顔をしておきながら、本性を隠していることに。

「それが人なんだよ。」

と言ったのは、私が占い師になるために俺が教え込んでやるよと勝手に名乗り出た一人の男性でした。

その男性は不思議なオッサンなのですが、彼の話は常に興味深く、当時の私の視野を広げてくれました。

「お前が腹を立てるのは同じ感情がお前の中にあるからなんだよ。同じ感情がなければ気にも止めない。そんな事を言って、もし、お前がその人と同じ立場ならどうだった?今は同じことをしないと言えるだろうが、トイレ掃除をする前だったらどうだった?」

彼は優しく言いました。
そしてその言葉に、私は黙ってしまいました。

「な、それが人なんだよ。」

彼はもう一度そう言いました。

その言葉の意味を受け入れられるようになったのは、それからずっと後の事でした。


どんなに着飾っても、どんなにすましても、人には隠せない部分がある。

それは人に見られては恥ずかしいと感じるもの。
そして、それを自分では正すことのできない弱さがあるという事。

それも含めて、人なんだと。

彼の言葉とトイレ掃除の経験で教わりました。

占い師になった私にとって、とても大きな経験でした。



禅寺のトイレに飾られている仏像。


鋭い目で睨んでいるのは、穢れを焼き払うだけではなく、人目をはばかり、醜い行いをしよとしている私たちに何かを語りかけているのかもしれません。




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