『個別の授業で面と向かっては言いにくい話をコラムにしています。ですのでタイトルも「ひとり言」。日々の指導で気づいたあれこれを綴ります。』
国語の文章には物語文や説明文がありますが、どうせ読むなら書かれた内容に積極的な関心を持てると良いですよね。
最近の生徒たちを見ていると、受験勉強以前にあまり読書の経験がないせいか、文章から何かを学ぶという姿勢があまり感じられません。
テクニックだけで問題を解くこともできるでしょうが、せっかく文章を読むのですから、そこから自分にとって身になるものを吸収してほしいもの。
そのための1つの方法として、私は"名言探し" を提案しています。
まとまった文章の中から自分にとって役立つ、あるいはハッとさせられるような一文に線を引く。
これは設問に直接役立つとか、読解の方法論として優れているとか、そういうものではありません。
あくまで自分を基準に、心に響いたり着眼点に驚かされたり、そういう文に敏感に反応するだけです。
たとえば河合隼雄さんの「こころの処方箋」は中学受験の国語の問題でも時々見かけますが、この本で私が感銘を受けた言葉に次のようなものがあります。
物事は努力によっては解決しない。
今手元に本がないため正式な引用にしていませんが、たしか宗教家のクリシュナムルティの言葉を河合さんが引用して紹介していたはずです。
第一印象は最悪の言葉でした。「なんだ、努力を否定するのか…」そんなふうに考えてしまったんですね。
しかし言葉の言わんとすることはまったく違いました。
「努力すればうまく行く」と簡単に言うけれど、さまざまな事情から、精一杯努力してもうまく行かないことなんて世の中にはざらにある。
「努力すればうまく行く」と決めつけてしまうことは、うまく行かなかった場合、その当事者をどこまでも追いつめることになりはしないかと。
河合隼雄さんは心理カウンセラーでもあったので、いろいろな症状を抱えたクライアントと接する中で、この言葉の重みを嚙みしめたのでしょう。
私はこの言葉に出会って、自分にとっての"努力"の意味内容がアップデートされたと感じたものです。
受け持った生徒に対して「努力すればうまく行く」などと無責任な発言をすることは、だから絶対にありません。