「絆の証―自動車整備工が見た、命と優しさの絶妙な融合 パート5」

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テトラポットを登りきった義男は息が荒かった。
何しろ左手の中には死にかけた三毛猫赤ちゃんがずぶ濡れになっているのを優しく掴んだ儘、片手だけで幾重にも重なる波消しブロックを一気に登って来たからだ。

岸壁に登って来てから三毛猫赤ちゃんをじっくりと見た。
背中の殆どの毛は抜け血が所々に滲んでいる。
眼は閉じたままで首はうなだれている。もう鳴く元気も無いようだ。
義男は車の助手席に三毛猫赤ちゃんを、そっと置いた。
まるで小さなタワシでも置いているかのように見えた。

義男は釣り道具を放置した儘、三毛猫赤ちゃんのレスキューの為にテトラポットを急いで降りて行ったのだ。
だが今はその釣り道具は完全に姿を消していた。残っているのはクーラ―のボックスだけだった。
釣り竿は大物が海中に引っ張って行ったようだった。
7万円もしたのに残念と思ったが、急いで荷物を車に積んだ義男は、三毛猫赤ちゃんをとりあえず獣医さんの所へ連れて行って治療をしようと思った。

この岸壁は街から遠く離れている一山超えた場所だ。
義男は近くの動物病院の場所をスマホでググった。
一番近い所で27キロ離れていた。
未だ閉店までは三時間ある。
急いで行けば間に合うだろうと思った。
義男はカローラスポーツハイブリッドを発進させた。

カローラは快適に走った。道は悪く狭いが一時間位で着くだろう。
義男は助手席に蹲っている三毛猫赤ちゃんを気に掛けながらハンドリングを続けていたが、何故に俺はこの猫ちゃんを必死で助けようとするのだろうと疑念が湧いて来た。
放って措いても何の問題も無い筈だ。赤ちゃん猫がカラスに突っつかれようとも海に落ちて死のうとも自分になんら関わる事では無いはずだ。
自分は釣りを楽しんでいればそれで良い筈だ。

その時、義男の脳裏に去来するものが彷彿として浮かんで来た。
それは遠い記憶。義男が中学生の頃だった。
義男は中学生の時は体が小さくて背も低かった。そのせいで同級生からイジメを受けていたのだった。


・・・中学生の義男は、新しい学期が始まることを心待ちにしていた。
義男は穏やかな性格で、他の人との関わりを大切にする少年だった。しかし、クラスの中で彼をいじめる生徒たちは、彼の優しさを見下し、悪意を持って彼を狙っていた。
最初は些細なことから始まった。彼らは義男の持ち物をいじり、教科書を紛失させるなどの嫌がらせを繰り返した。次第にそれはエスカレートし、彼らは義男を公然と馬鹿にし、冷たい言葉で彼を傷つけるようになった。 チビ、小人、小学生!などとナジルのだった。

義男は一人で耐えるしかなかった。彼は友人を作ろうと試みるものの、イジメの影響で自信を失い、人と関わることに恐怖を感じるようになってしまった。
いじめは日に日に悪化していき、義男は学校へ行くことが苦痛になっていった。彼の周りには誰も彼を助けてくれる存在はおらず、彼は完全に孤立してしまった。

義男は毎晩、涙を流しながら一人で自分を励まし、明日も頑張ろうと思っていた。彼は強くなりたいと願いながら、闘い続ける決意を固めた。
ある日、義男は校内で優しい笑顔を浮かべる一人の生徒、佐藤(さとう)と出会った。佐藤はいじめに対して抵抗している他の生徒たちと共に、義男を助けるために行動していたのだ。

佐藤たちは義男の苦しみを共有し、彼を支える存在となった。彼らの優しさと勇気に触れ、義男は再び希望を見出すことができた。
義男と佐藤は団結し、いじめに立ち向かっていく決意を固めた。彼らは学校の教師や保護者に相談し、いじめの実態を伝えた。学校は真剣に問題に取り組み、いじめ行為を根絶するための措置を講じた。

少しずついじめが収まり、義男は他の生徒たちとも関係を築いていくことができた。彼は自身の経験を忘れずに、いじめのない社会を作り上げるために声を上げ、行動することを決意した。

義男と佐藤は、いじめを経験した過去を胸に刻みながらも、困難に立ち向かう勇気と強さを身につけた。


そう言えば、そんな事が中学生の時にあったなぁ・・・
このボロボロになっている三毛猫赤ちゃんの姿を見ると、あの時の俺の姿と重なるものがある。まるで自分を見ているようだ。
そうだ、この三毛猫赤ちゃんを助ける事はあの時の自分を助ける事なんだ。
そう結論を出した義男はアクセルをグッと踏み込んだ。



義男から一言
最後まで読んでくれて有難う
パート1から読んでね(^^♪

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