天然御曹司の友情にMerry Christmas!

記事
小説
 あらすじ
 福山博人は叔父であるマルクとロバニエミに来ていた。マルクは医者なので働いていたが、博人は冬休みなので遊び放題だ。
 そんな博人は、サンタクロース村の一部を買いたいと言い出すと村民から無理難題を押しつけられるが、救出してくれたのは同じ日本人の山口昌平だった。

 ――出会うはずのなかった2人が、出会ってしまった。

 ドイツのフォン・パトリッシュの若手御曹司と、日本では権力のある「御」の若手御曹司が密かに出会い、仲良く友情を育んでいく物語です。

  一
 博人はドイツに住んでいる叔父のマルクとロバニエミに来ていた。
 マルクは仕事をしに、博人は遊びだ。
 毎日のように遊びに行っている博人は元気そのものだ。
  「雪だよー!」
 ドアが開くとともに聞こえてきた大きな声はヒロの声だ。
  「お帰り、ヒロ。帰ってきたら、どう言うのかな?」
  「ただいま、マルク。」
 マルクはヒロと呼んでくれる。
 ヒロトのほうがいいのだが、以前聞いたとき、こう返されたのだ。
  「ヒロのほうが呼びやすいんだ。駄目かな?」
 その言葉に即答していた。
  「ううん、いいよ。」
 その呼び方が定着していた。
 そのマルクは「ただいま」と言っても暖炉の側から動こうとしないので、こう言ってやる。
  「マルクは、どうして動かないの?」
  「寒いからに決まっているだろ。」
  「外は、もっと寒いよ。」
  「それはヒロの鼻の頭が真っ赤になっているから分かる。」
  「子どもは雪の子だよ。これ位へっちゃらだよ。」
 えへへと笑って手袋を嵌めたままヒロは自分の鼻を擦る。
 その仕草にマルクは思わず声に出ていた。
  「元気だなあ……」
 その声が聞こえたのか、ヒロはこう返してくる。
  「マルクは暖炉から離れようとしないね。お爺ちゃんになっちゃうよ。」
  「大人は暖炉が好きなんだよ。」
  「でもね、今日のサンタさんは若かったよ。」
  「そうか。」
 そう、ここはフィンランドの北部にあるロバニエミだ。
 この市ではサンタクロースしか居ないサンタクロース村がある。
 この街は第二次世界大戦で壊滅したが、現在ではサンタクロースの公式の故郷として知られ、オーロラを見る事も出来る場所で有名な所だ。
 そんな所にマルクとヒロは遊びに来たのだ。
 もっぱらヒロのリクエストで、マルクは付き添いだ。
 そうは言っても仕事はしないといけないので、駅前の病院に働きに行く。
 元気なヒロは毎日の様にサンタクロース村に通っている。
  「今日は何をして遊んだの?」
 ヒロは目を輝かせて応えてくれる。
  「今日ね、スノーモービルをしたよ。」
  「楽しかった?」  
  「うん。すっごく楽しかったよ。マルクも来れば良かったのに。」
  「そうだなあ、あと2週間ぐらいは無理かもなあ。」
  「お仕事って大変だね。」
  「ヒロが色々と話してくれるので、聞いているだけで楽しいよ。」
 その時、盛大にくしゃみをしたヒロは着替えてくるねと言って奥に引っ込んだ。 
 サンタクロースしか居ないと思って同行したのだが、もっと調べておくべきだった。まさか、サンタクロース村がアトラクションで遊ぶ場所だとは思ってもいなかったのだ。
 サンタクロースやエルフをテーマにしたアトラクションで、多数のショップや土産品店やホテル等があり、一年中遊べるなんて。しかも、近くには公園があり、そこは大きな洞窟の中に作られたテーマパークが。その他にも玩具工場、エルフスクール、氷の彫刻のギャラリー。冬にはスノーモービル、ハスキー犬の牧場ツアー、トナカイのそり体験等が追加される。
 ヒロは寒くても毎日行く。
 そこまでハマるものなのだろうか。夏に来れば良かった。まだマウンテンバイクやウォータースポーツの方が良い。でも、一番の人気シーズンは10月から翌年の5月までの期間だ。
 一番の見物であるオーロラが現れるからだ。
 11月から翌年の3月までは非常に寒く雪しかないので日照時間も短い。
 北極圏だなんて、私には無理だ。
 だけどマルクは知らなかった。
 ドイツではドーベルマン相手に頭を撫でているヒロが、こちらではハスキー犬やトナカイを相手に同じ様に頭を撫でていることを。

 サンタクロース村の一部をヒロが買い取ったことも知らなかったのだ。
 当初は渋っていた村民は、相手がドイツのフォン・パトリッシュだと知ると、掌を返したように高値を付けたのだ。相手がマルク本人だと高値は付けられないが、子どもだ。だから侮っていたのだ。その子どもが『御』の直系の血筋だとは思ってもいなかったのだろう。
 フォン・パトリッシュという姓は多国に存在するからだ。
 博人は、その場でドイツにテレビ電話したのだ。
 『ん、博人か。どうした?』
 「あのね、僕、サンタさんの村に居るのだけど、土地を買っても良い?」
 『いくらだ?』
 値段を言うと、『御』は笑い出した。
 『わははっ、マルクはどうした?』
 「お仕事だよ。」
 『マルクと一緒だと、そんなに高くなることはないぞ。』
 「だって、マルクには内緒だもん。」
 『どうして?』
 「マルクにプレゼントしたいの。」
 『サンタクロース村を?』
 「ううん。サンタクロース村の一部に、フォン・パトリッシュの敷地を買うの。そこにマルクを呼んで一緒に過ごしたいんだ。」
 『敷地を買ってどうするんだ?』
 「日本では、雪を固めて、お家を作るでしょ。暖炉も付けて。」
 『雪……お家……暖炉って?』
 何かを感づいたのか、お爺様は顔を綻ばせた。
 『かまくらか。』 
 「うん。それを作るのに場所が欲しいの。」
 『夏になると溶けるぞ。』
 「ううん、溶けないよ。溶けたとしても、また作れば良いだけだよ。」
 『どうして?』
 「だって、マルクは仕事ばかりで、ここに来ようとしないんだよ。こんなに綺麗で素敵で楽しい所なんて他にはないよ。」
 『そうか、博人は1人で寂しいんだな。』
 「買っても良いでしょ?」
 『高すぎる。』
 「え、そうなの?」
 『その値段ならマンションが買える。』
 「いや、場所を買うだけなんだけど……」
 どんなに言っても、お爺様は首を縦に振ってくれなかった。
 だから博人は村の人には「考えさせてください」と返すしかできなかった。
  二
 毎日のように遊びに行っているヒロトは、サンタクロースはバイリンガルだと気が付いた。
 お爺様との電話の内容を聞かれているのかもと思ったが、悪口を言った覚えはない。それでも心優しい人は居るもので、ヒロトに声を掛けてくる。
 「あの、うちの裏なら使っても良いよ。」
 「裏って、あの、良いの?」
 「私はショウ。私の敷地には誰も文句を言わないから。」
 「本当に良いの?」
 「同じ日本人同士だし、仲良くしよう。」
 「本当に、本当に良いの?」
 「良いよ。だけどテナント賃は貰う。いいかな?」
 「ありがとう。」
 ショウの家は土産品店をしているが、居住の方はシンプルだ。ネームプレートにはローマ字でYAMAGUCHIと書かれている。
 「山口さんって言うの?」
 「そうだよ。山口昌平。ショウで良いよ。」
 「僕は福山博人。ヒロトって呼んで。」
 「それなら、ヒロトは私の所で働いて貰う。それがテナント賃な。」
 まさか、そんな言葉を聞くとは思ってもいなかった博人は目をぱちくりとさせていた。
 「え、働く?」
 「そうだよ。働いた分のお金をテナント賃として貰うから。」
 「もしかしてサンタさんになるの?」
 「そうだよ。サンタの服を着るんだ。」
 わあっと目を輝かせたヒロトに、ショウは可愛い天然坊やだなと確信した。
 これは、ふっ掛けられ騙されるタイプだ。そのヒロトの年齢を知ると、益々驚いたものだ。
 思わず言っていた。
 「ヒロトは童顔なんだな。」
 「それ言わないで。」
 ぶんむくれるヒロトは可愛い。
 だからショウは言っていた。
 「私は、こう見えてヒロトと同じ年齢だよ。」
 「え、嘘。ショウも16歳なの?」
 「そう。ヒロトと同じだよ。同学年だ。それに私は中高をスキップして、現在大学一年だよ。」
 「ショウって老け顔なんだね。」
 「そこかよ。」
 頭を小突かれるが痛くない。こんな風に、誰かと対等に話ができるだなんてヒロトは思ってもなかった。
 ヒロトは朝から昼前までは自由に遊び、お客さんの来る昼前から夕方17時までをショウの土産品店で働く。マルクが仕事から帰ってくるのは19時前だから余裕に遊べる。
 だから、薄暗い雪の中で遊んでいた。
 そして、1週間後。
 ヒロトは頑張って働いたせいか、ショウの敷地の一部を買い取ることができた。
 「すっごいなあ、ヒロトは。」
 「なにが?」
 「1週間で8000ユーロも儲かるなんて。私より才能あるかもな。」
 その言葉に、えへへっと頭を掻いていた。
 ショウは2000ユーロをヒロトに手渡す。
 「え、どうしたの?」
 「これは、テナント賃を貰った残り。それはヒロトの実際に貰える給料だよ。」
 「こんなにも貰えるだなんて……」
 「よく頑張ったな。」
 頭を優しく叩かれ、そんな言葉を聞いたヒロトは嬉しそうだ。
 「ありがとう。」
 プレゼントが買える。そう思ったヒロトだった。
 今度は、かまくら作りだ。材料の雪には困らない。なにしろ、毎日の様に降っては積もりを繰り返しているからだ。
 お客さんの邪魔にならない様に午前と夕方になる前の2回は屋根から雪落しをする。そして道端のを雪かきして道ばたによける。
 クリスマスは24日だけど、マルクの誕生日は、その前日の23日だ。
 どうか間に合います様に。
 ショウからアドバイスを貰いながら自分で作っていく。
 ひとまず雪で山を作らないといけないので、屋根から下ろした雪と道路上の雪を集めて堅く踏みしめていく。ショウはポリ袋に水を入れて中心となる位置に三袋置いてくれるが意味が分からないので、聞くと、一言だけだった。
 「私も作ったことがあるんだ。まあ任せなさい」
 時々、雪に水を掛けながら高さ3メートル位の山を作るのに丸1日掛かってしまった。
 ショウから、一晩、山も寝かせてやったほうがいいよと言われたので、素直にその言葉に従って家に帰ると爆睡していた。お陰で目が覚めたのは昼前だった。
 思わずマルクに毒付いていた。
 「マルクの馬鹿。起こしてくれれば良かったのに……」
 走るようにサンタクロース村に行く。
 「おー、来たか。」
 「ごめんなさい、寝坊しちゃって……」
 「気にするな。冬休みで毎日居るから。」
 「でも」
 「それより触ってみろよ。夕べ一晩寝かせていたせいでカチコチの山になってるぞ。」
 雪山を触ってみる。
 「冷たい。」
 ショウは笑ってくれる。
 「わははっ、ヒロトは本当に面白い奴だなあ。」
 「馬鹿笑いしなくても良いだろ。」
 だけど、ショウは違うことを言ってくれる。
 「入り口は小さめに、奥に進むほど大きく高く掘り進んでいくんだ。」
 「ショウは物知りなんだね。」
 「作ったことあるからな。」
 思わず言っていた。
 「同学年だとは思えないや。」
 「ところでヒロトはいつまでここに居るんだ?」
 「クリスマスが終わるとドイツに戻り、年が明けると日本に帰るよ。」
 「そっか、ならもう少しか。」
 「ショウは大学卒業したらどうするの?」
 「日本に帰る。長男でね、跡取りなんだ。」
 「ということは経済か。」
 「ああ、そうだ。」
 「日本の大学と、どう違うの?」
 「うーん、どうなんだろう。中学の時からここだからなあ。」
 少し考えたのかショウは言ってくる。
 「これだけは言えるな。日本とは違い、欧米では仕事している人も入学してくる。」
 「それは言えるね。」
 「勉強したい科目を選び、3ヶ月ないし6ヶ月の受講期間がある。併行して受講できるし、更新して1年とか延長できる。でも、日本では最初から決まっているよな。4年間だろ。」
 「医学だと6年間。」
 「ヒロトは医学か。」
 「親が医者でね。」
 「まあ、フォン・パトリッシュは医学に重きを置いているからなあ。じゃあ入り口をしてくる。」
 そう言うと、ショウは出て行った。
 2人して穴掘りしていた。掘り出した雪はショウが何かにするつもりみたいだ。中を掘り進むと、雪ではない何かに当たる。外に居るショウに声を掛ける。
 「これはなんだ?」
 「水が入ったポリ袋か?」
 「水でなく凍っているぞ。」
 「あちゃ、氷になったか。ひとまず休憩しよう。」
 「ありがと。」
 中を掘り進んで3日後、かまくらは完成した。
 結局、3メートルを超えた高さのある、かまくらになった。
 あとは暖炉か、たき火だ。
 プレゼントも買わないといけないと思い、ショウに声を掛ける。
 「明日はマルクを連れて来るね。」
 「ゆっくりしろよ。」
 「マルクのために作ったんだ。明日はマルクの誕生日だし、雪を見て、この綺麗な世界を知って貰いたいんだ。」
 「まぁ、ヒロトって」
 「仕事ばかりで疲れてるマルクに、少しでも心に癒やしを持って貰いたいんだ。」
 「分かった。気をつけて帰れよ。」
 「ありがと。それじゃ、明日。」

 駅近くに借りているフラットに戻ると、壁に掛けられているスケジュールカレンダーを見ながらマルクに話しかける。
 「マルク、明日は休みだよね?」
 「そうだよ。」
 「付き合って欲しいんだ。」
 「遊びに行かないのか?」
 「明日はマルクと遊びたいんだ。」
 「喜んで付き合うよ。」
 「ありがとう。絶対だよ。」
 そう約束したのに、翌日、マルクは出かけようとしている。
 「マルク、どこ行くの?」
 「ごめん、急患で」
 「今日は休みだって言ってたよね?」
 「早く帰ってくるから。」
 「いつ」
 「ごめん、もう出ないと。」
 「マルク!」
 「ヒロ。医者はいつ声が掛かるのか分からないんだ。」
 「マルク……」
 「それじゃ、行ってくるね。」
 「マルクッ」
 今日でないと意味がないんだ。
 マルクの馬鹿。

 マルクの大馬鹿。もう17時過ぎたじゃないか。いつ帰ってくるんだよ。心の中で毒付いてもマルクに通じないのは分かっている。
 そのマルクが帰ってきたのは22時を過ぎていた。
 「マルク、お帰り。」
 「ただいま。」
 疲れているのは見て分かるが今日で無いと意味がないんだ。
 だから言っていた。
 「マルク、付き合って。」
 「ごめん、疲れてるんだ。」
 「約束したよね。」
 「明日は付き合うよ。だから今日は」
 「今日でないと意味がないんだよっ」
 思わず大声を出してしまったことに気がつき、ハッとする。
 「ヒロ……」
 「朝から、朝からずっと待ってた。今日でないと駄目なんだ。」
 「ヒロ、あのね」
 「疲れているのは分かってる。だけど、僕の我儘……、一度しか……、言わな……ら、お願い、……って、マルク、お願い」

 マルクの声が遠くなっている。
 「分かった。だけど何も食べてないんだ。食事を食べてからでも良いかな?」
 「あ、そうだね。何か食べないと。」
 「今日のハウスキーパーさんは何を作ってくれたの?」
 「スープと……」
 なんだっけと考えていた。
 マルクの呆れかえった声が聞こえてくる。
 「ヒロは食べたんでしょ。それとも、もう忘れたのかな?」
 2人してダイニングに向かうと、テーブルには手つかずの料理が二人分そのまま残っていた。
 それを見たマルクはヒロトが何も食べてないのが分かった。
 「暖め直して一緒に食べよう。」
 「うん。」
 食べ終わると眠気がくる。
 だけど、まだ寝ちゃ駄目だ。
 「マルク……」
 「なんだい?」
 「……こう」
 「ヒロ、なんだい?」
 ハッと気がつき頭を横にブンブンと振る。
 「ヒロ、どうかしたの?」
 「コート着て。」
 「忘れたのかと思ったのに……」
 「忘れてないから!」
 そう返すと苦笑された。
 「こんな時間は、どこも開いてないよ。」
 「ううん、一ヶ所だけ開いてるから。」
 時計に目をやると23時だ。
 まだ大丈夫だ。
  三
 目指す場所は歩いて20分位の距離だ。
 「ヒロ、どこ行くの?」
 「こっちだよ。」
 かまくらに着いたのは23時半になっていた。
 まだ大丈夫だと呟いていた。
 「ヒロ、寒い。」
 「大丈夫だよ。こっちに来て。」
 その言葉に促されマルクが動くと明るくなった。
 「見て、かまくらだよ。」
 「かまくらって……」
 「最初は、こっちね。」
 そう言うと、時計を確認する。23時40分なので安心した。
 はい、と自室から持って来た袋を差し出す。
 「誕生日おめでとう。忙しいのに僕の我儘に付き合ってくれてありがとう。マルクへの誕生日プレゼントだよ、受け取って。」
 「たんじょ……え、あれ、今日って」
 「12月23日はマルクの誕生日でしょ。」
 「なんで知って」
 「今日中にプレゼントを渡したかったんだ。受け取って。でないと今日が終わる。」
 「ありがとう。」
 そう言われ抱きしめられた。
 「マルク……」
 「ヒロは暖かいね。」
 「たき火でしょ。」
 「違うよ、ヒロの心のことだよ。ヒロの心は昔から変わらない。外見は変わっても中身は変わらないよね。ありがとう。」
 「なんか照れるな……」
 「プレゼントもありがとう。何が入っているのか見ても良い?」
 「どうぞ。」
 時計を見ると23時50分になっていた。
 「暖かそうなマフラーと手袋だね。早速、身に付けさせて貰うね。」
 「うん、どうぞ。」

 マフラーと手袋を身に付けながら言ってくる。
 「ところで、ここはどこ? 結構な時間を歩いたよね。」
 「サンタクロース村の中だよ。」
 「はあ?」
 驚いて大きな声を出したマルクに、ヒロはクスクスと笑っている。
 「マルクは一度しか来なかったでしょ。しかも少しだけ。本当なら昼間に来て一緒に遊びたかったんだ。マルクにサンタクロースと会って……楽しんで……貰い、たかった」
 「ヒロ?」
 「マルク……ハッピー……バース……」
 寝そうだと気が付いたマルクはヒロの体を揺すっていた。
 「ヒロ、ヒロ、寝るな。寝ると凍るぞっ!」
 いきなり声が聞こえてきた。

 「メリー・クリスマスッ!」
 「皆、恒例のプレゼント配り行くぞ-」
 「オー!」
 思わず呟いていた。
 「え、プレゼント配りって……」
 誰かが覗いてくる。
 「あちゃあ、寝ちゃったか。」
 目の前にはサンタクロースが居た。
 「え、サン、サンタ……」

 そのサンタクロースはヒロを優しく覗き込んでいる。
 「ヒロー! 最高の時間になったよ。これから配りに行くぞ。」
 ヒロの頬を抓っているが、起きそうにないヒロに、そのサンタは苦笑している。
 「うーん……、サンタのかき入れ時なんだけどな、仕方ないか。」
 そのサンタは私に話しかけてくる。
 「プレゼントを用意してないので、これだけ言っておく」と前置きして、そのサンタはヒロが話してくれたと言って、どうしてヒロがかまくらを作ったのかという話をしてくれた。
 その言葉に驚いたものだ。
 「え、ヒロがそんなことを……」
 「雪だ。」
 「ホワイトノエルだー」
 「スノウ・ド・ノエル!」
 あ、本当だ。雪が舞っていると思ったら降り出してきた。
 「ヒロ、起きないと凍るぞ。」
 サンタもヒロを起こそうとしているのか、こんな言葉を口にしている。
 「ヒロー。時給50ユーロでどうだあ!」
 その金額に驚いた。
 「え、50ユーロって」
 ヒロの耳に届いたのだろう、ヒロの目が開いた。
 「ふわぁ……。え、あ、あれ、サンタさんが」
 「配りに行くぞ。」
 「なにを」

 ヒロの声を遮るような大きな声が響いてくる。
 「オーロラだー」
 「オー!」
 「今夜は素晴らしい」
 「オーロラと雪のコンボだー」

 その声に反応したのか、ヒロはしっかりと目を開けていた。
 「あ、オーロラだ。マルク見て。僕ね、このオーロラを見たかったの。」
 「ヒロ……」
 「このかまくらから、マルクと一緒にオーロラを見たかったんだ。」
 「ヒロ。」
 「誕生日おめでとう。それと、あのオーロラはクリスマスプレゼントだよ。受け取ってね。」
 「ありがとう。最高のプレゼントだよ。」
 でも、寒いので言っていた。
 「しかし、寒いな……」
 「そうだね。帰ろうかな。」
 「ああ、その方がいいな。」
 寒いが、心の中は暖かい。
 ヒロ、ありがとう。

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