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【今回の情報】
〇患者情報
Aさん78歳女性。今年の6月下旬に左脳梗塞発症し脳神経外科病院に入院した。薬物療法と機能回復訓練を受け、回復期リハビリテーション病棟へ移動し、8月上旬に介護老人保健施設へ退院して療養生活を送っていた。
介護老人保健施設入所後より食事摂取時にむせ込みがみられるようになった。入所から約2か月が過ぎた10月12日、数日間の微熱の後、体温38.5℃まで上昇。翌日13日も解熱しないため、総合病院の外来を受診したところ誤嚥性肺炎疑いと言われ、入院することを勧められそのまま入院となった。
【入院当日】10月30日
11時30分、車いすに乗車して内科病棟305号室(4床部屋)に入院した。体温38.2℃、脈拍101回/分、血圧106/61mmHg、呼吸は浅く29回/分 SpO2:90%で湿性咳嗽がみられ、何とか自力で痰を喀出している。痰は黄色の粘稠痰で、右下肺野に断続性副雑音が聴取される。倦怠感著明。問いかけへの返答がやや遅いがJCSⅠ-1である。脳梗塞の既往により、右上下肢の不全麻痺と構音障害がある。
血液検査によって炎症反応、動脈血ガス分析によって著明な低酸素血症を認めたが、肝機能・腎機能ともに異常はなかった。
主治医より「電解質・アミノ酸製剤(ビーフリード500ml)の輸液を1000ml/日、抗菌薬(ゾシン4.5g+整理食演繹100ml)を2回/日、去痰薬(ブロムヘキシン塩酸塩4㎎)静脈注射2回/日、酸素吸入1L/分(カニューレ)、ネブライザーによる吸入(ベネトリン吸入駅0.5%0.5mL+ビソルボン吸入駅0.2%2mL+生理食塩水8mL)2回/日」が処方となった。
主治医からAさん家族へ「レントゲン検査と血液検査の値からやはり肺炎になっていました。濃厚層の後遺症で飲み込みが悪くなり、食べ物が誤って肺に入ったことが原因と考えられます。これから炎症を抑えるために抗菌薬による点滴治療を行っていきます。熱も高いので、座薬(ジクロフェナクナトリウム25㎎)も使っていきます。今は血圧の薬を止めていますが、血圧の値を見て再開するか検討します。脳梗塞の薬は引き続き飲んでいただきます。リハビリで飲み込みの訓練を行ってもらいます。肺炎が治れば1週間ほどで退院できると思います」という説明があった。
16時、点滴の滴下状態を確認するために看護師が訪室すると尿失禁していたため、清拭・更衣を行った。行為の際、左手で右側のベッド柵に捕まり、右側臥位を摂ることができた。やや濃縮尿であり、「(おしっこが)出たのが分からなかったよ。、、、、、、」とAさんは言った。尿器での排泄を介助するのでナースコールを遣うよう説明するが、「だるくてね…それにわざわざ来てもらうのも悪いし」と本人からの訴えもあり、Aさんの承諾を得て紙おむつを使用した。
18時、夕食はベッドアップ90度にしてオーバーテーブルで食事をした。口唇と口腔内に乾燥があり、含嗽してもらう。お粥3口と副食2口を摂取し、みそ汁を飲んだところでむせていまい、それ以上食べようとしない。進めても「もう沢山です、疲れちゃって」と言った。義歯を外して咳嗽する。10分ほどのベッドアップで疲労感が著明であった。
夕食後少量の排尿があり、おむつ交換の後臥床する。
20時、ネブライザー使用し自己排痰した
22時、入眠した。
【入院2日目】(10月14日)受け持ち初日
本日より言語聴覚士介入となる。
0時、おむつ交換、体位交換を行い、排痰の介助をする。夜間、断続的に咳嗽が聞かれる。
7時、Aさんは「席がいっぱい出るので、あまり眠れなかったです。」という。咳嗽のため、熟眠感が得られなかった様子である。両下肺野に異常呼吸音が聴取される。問いかけに返答するが、すぐ閉眼してしまう。モーニングケアとオムツ交換を行うと、多量の排尿を認める。
8時、朝食の際に「疲れた…もう沢山です」と言い、お粥6口と副食3口のみを摂取する。お茶を飲むとむせた。
9時、体温38.1℃、脈拍88回/分、血圧98/60mmHg、呼吸25回/分、SpO2:92%(酸素1L/分カニューレ使用)、両肺野に雑音聴取。呼吸苦の訴えなく、チアノーゼ・冷感なし。
10時、ナースコールがなり、訪室すると尿意を訴え尿器使用を希望し、150ml排尿する。オムツには排尿なし。その後ネブライザーし黄色粘稠痰を自己喀出する。
面会に来た夫・娘夫婦に「来てくれてありがとう、でも大丈夫だから…あなたたちは早く帰りなさい。私も早く家に帰りたい・・・」と言い、娘に足をさすってもらううちに入眠した。夫・娘夫婦帰宅後に「早く帰りたいなんて言って娘たちを困らせちゃったかな。本当はもう少しいて話を聞いてほしいと思ったけど、こんな姿あまり見せたくないし、足をさすって貰って気持ちよかったよ。」とはにかみながら看護師に話をする。
12時、おむつ交換時、仙骨部の皮膚に浸軟と発赤がみられた。オムツ交換後ST来棟し、昼食のため、ギャッチアップするが開眼せず、頭部を起こして声掛けして覚醒される。「もうお昼ですか、ついさっき朝ご飯を食べたような気がしますが、はぁ(溜息)。」と言うため、「まだ熱があって体がだるいかもしれませんが、少しでも栄養を取りましょう。」と声をかける。約20分かけて、主食・副食ともに3割程度摂取する。「味が分からない、はやくベッドを下げて」という。相変わらず倦怠感が強い様子であった。この日のブレーデンスケールにおける評価は15点。
入院前のADL
移動:車椅子使用し手を添える程度の軽い介助で起き上がり・起立動作実施可。端坐位保持か。片麻痺用の車いすであれば自走可能。
更衣:上位の着脱は概ね自分でできるが、下衣の着脱には介助を要する。
入浴:リフト浴で週3回施行。脳梗塞発症前は毎日入浴していた。
排泄:日中はトイレ、夜間はポータブルトイレを使用。起立と腰の疥癬並びに衣類の上げ下ろしは一部介助が必要。尿意があるが、時々動作が間に合わず、衣類を濡らしてしまうことがある。排尿は日中4~5回、夜間は2回、排便は2日に1回程度。3日以上排便が無ければ下剤8ラキソベロン内用液0.75%10滴/回)を服用していた。
食事:配膳に介助を要するが、自助具を使用し自己接種可能。時折むせてしまうことがあり軽度の嚥下障害を認め、全粥・ミキサー食、水分は軽度のとろみをつけて摂取されていた。部分義歯(上下)であるが、咀嚼に問題は無い。
視聴覚機能:老眼鏡を使用している。やや耳が聞こえにくいが日常生活に支障はない。脳梗塞発症後、構音障害があるため発音が聞き取りにくい部分があるが理解力はあり、どうにか自分の言葉で伝えることができる。
認知機能、脳梗塞発症後記銘力の低下を認めるが日常生活に支障はない。
要介護度:要介護3
生活歴・背景
もともと専業主婦であり80歳の夫と二人暮らし。以前から子供(娘一人)には子どもの人生があると夫婦で話し合っており、同居の意向は無い。娘夫婦は車で1時間のところに住んでいる。
正確は温厚でお話が好き。裁縫や編み物が趣味でセーターなどを編むことができていた。施設入所後は、「手が聞かなくなっちゃったから編み物もなかなかできないわねぇ」と笑いながら話す。
飲酒、喫煙歴は無い。
Aさんは住み慣れた家に退院したいと言っているが、夫・娘夫婦は施設へ戻ることを希望している。
既往歴
60歳:高血圧にて内服治療(アムロジピン2.5㎎朝食後1錠)※入院時から中止中
78歳:左脳梗塞(右半身まひ)薬物療法。(バイアスピリン100㎎朝食後1錠)
検査データ
・身長151㎝ 体重42kg
・全身るい痩あり
・10/13腹部レントゲン:右下肺野に浸潤影
・10/13採血データ
項目 10/13データ
RBC 342万/μL
WBC 342万/μL
Hb 10.3g/
Ht 35%
TP 4.8g/dl
Alb 2.5g/dl
Na 132mEq/L
K 3.6mEq/L
Cl 100mEq/L
CRP 4.3mg/dL
・10/13動脈血ガス分析(酸素療法前の検査)
項目 10/13検査結果
PaO2 62.5Torr
PaCo2 46.5Torr
pH 7.425
SaO2 91.6%
食事区分:全粥・ミキサー食
【アセスメント】
1.正常に呼吸する
〇呼吸数、肺雑音、呼吸機能、経皮的酸素飽和度、胸部レントゲン、呼吸苦、息切れ、咳、痰喫煙歴、アレルギー、自宅周辺の大気環境
■疾患の簡単な説明
Aさんは誤嚥性肺炎を発症している。誤嚥性肺炎とは、口腔内の細菌や食物などが誤って気管支や肺に入ることで起こる感染症である。Aさんの場合、脳梗塞後の嚥下機能低下が誤嚥のリスクを高めていたと考えられる。
■呼吸数、SPO2、肺雑音、呼吸機能、胸部レントゲン
入院時の呼吸数は29回/分と頻呼吸であり、SpO2は90%と低下している。両下肺野に異常呼吸音が聴取され、胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影が認められている。これらの所見から、肺炎による呼吸機能の低下が示唆される。
■呼吸苦、息切れ、咳、痰
Aさんは咳嗽と喀痰がみられ、黄色の粘稠痰を自力で喀出している。呼吸苦の訴えはないが、呼吸は浅く、SpO2低下もあることから、呼吸困難感がある可能性がある。
■喫煙歴
喫煙歴はない。
■呼吸に関するアレルギー
情報が不足しているため、アレルギーの有無については追加の情報収集が必要である。
【総合的なアセスメント】
Aさんは誤嚥性肺炎により、呼吸機能が低下している状態である。加齢に伴う呼吸機能の低下に加え、脳梗塞後の嚥下障害が誤嚥のリスクを高めており、それが肺炎発症の一因となったと考えられる。現在は抗菌薬治療と酸素療法が行われているが、呼吸状態は不安定であり、呼吸ニーズは未充足の状態にある。また、喀痰の自己喀出が困難な場合、呼吸ニーズのさらなる低下につながる可能性がある。今後は呼吸状態の注意深いモニタリングと、必要に応じた呼吸ケアの実施が重要である。同時に、嚥下機能の評価とリハビリテーションを進め、誤嚥のリスクを軽減していくことが求められる。