東京で暮らし始めた当時、私は太っていて、どうみてブサイクであった。100人に聞けば100人がブスだと言っただろう。
私は、変わりたかった。
バイト代をはたいて、地元の3〜4倍も値の張る美容院をあちこち訪ねた。
しかし、そこではいつも屈辱的な体験をすることになった。
「テキトーにあしらわれる」のだ。
「こいつは、服装とか髪型とかどーでもいいタイプの女」だと認定されて、ザクザク切ってぽいっと会計。希望の髪型を伝えても、聞き流されているのがわかる。隣の客と、明らかに対応が違う。
ブスが大枚はたいて美容院来ているんだから察しろよ!
どーでもいいわけねーだろ!
また「ただ短くされただけ」だった…。髪が伸びるのとお金を貯めるのに、また3ヶ月以上待たなければならない…絶望。
そんな思いを何度かした。
もう諦めかけたある日。街角に小さな美容院を見つけた。
小さなお家風で一目見て好きになった。意を決してそ〜っと扉を開け、ダメ元で聞いてみた。
「予約してないんですけど、いいですか?」
待ち時間はかかるがOKとのことだったので、ずうずうしくも飛び入りさせてもらった。
「担当させていただきます!◯◯です!」
「……!」
美容師のお姉さん、めちゃめちゃ派手なファッションににバッチバチのメイクであった。超絶地味女の私は、一瞬にして緊張して体が固まった。
金色に染め上げた髪に大ぶりのアクセサリー。つけまつ毛もボリューミー。
(…今日は、もう、逃げようかな……)
でも、そのお姉さんが本当に素晴らしいひとだった。
「…今日は、どんな髪型になさいますか?」
伝えたい髪型はあった。でもこれまでの経験から、伝える気を無くしていた。ブスの自分が髪型のオーダーなんかしていいのかどうか、わからなかった。
言いたい…でも言えない。
「…あ、あの、このまま短くしてください。」
死んだ魚の眼をしてそれだけ言った。
ややあって
「…じゃあ、どんな女性になりたいですか?」
見ると、その美容師さんは、腰を据えて話を聞く姿勢でこちらを見ていた。
「うち、ちょっと高いですよね。でも入ってくれたってことは、なりたい自分があるんですよね?…イメチェンしたいとかじゃないですか?」
いっぱい雑誌を持ってきてくれた。
「…ゆっくりでいいです(ニコッ)」
ガッチガチに緊張していた私も徐々に打ち解け、憧れていた髪型、女性像、そんなことをいろいろ話していた。
すると、お姉さんは、その髪型にするには長さがちょっと足りないこと(パーマにするには、見た目より実際の長さがいるんだな)、「切って、伸ばして」を何回か繰り返してクセを直して行く必要があることなどを説明してくれた。
初回は、「整えただけ」という感じだった。でも、ヒアリングに申し訳ないくらいの時間を割いてくれ、満足だった。
それから、言われた通り3ヶ月おきに通った。
もともと髪が伸びるのが早いだけあって、計画通り「伸ばして、切って、クセを矯正」しつつ、憧れのゆるふわパーマにしてもらった。
剛毛でもっさりヘアーの私のパーマは驚くべき早さでとれてしまったが、それでも通い続けた。
2年、3年…
今は4ヶ月以上は余裕で「ゆるふわ」が保つようになった。
髪のクセも矯正して、本当に、当時憧れた、肩につくゆるふわパーマにしてもらった。ダイエットも頑張った。
今の私があるのは、あの美容師さんのおかげた。
初めて会う私に「その場限りの仕事」ではなく、1年先を見越して、計画的な施工をしてくれたわけだ。1年先を見越せるってすごいよね。「こうすれば、こうなる」があの時点で読めたわけだ。
なにより、超絶地味女の私をひとりの女性として、ひとりの「客」として、美容の場で全く差別せず扱ってくれたことが、私の人生において衝撃的であった。(どちらかというと、最初、私のほうがチャラそうとか偏見もってたな…)
もう10年以上前の話だけど、(もう引っ越してしまったのだけど)今でも会いたいと思う。
本当、人生変えてもらいました。
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